20代後半、やってみたかった憧れの仕事に挑戦すべきか?

【石原壮一郎の名言に訊け】~ヨーダの巻~ Q:以前から「何かを表現する仕事」に憧れていました。かといって、小説家になるほどの才能はありません。文章を書くこと自体は好きなので、ライターになれないかと思っています。今はそれなりに安定した仕事についていますが、やってみたかった仕事に挑戦しないと、きっと後悔しますよね。30になるまでには答えを出したいと焦っています。(東京都・27歳・営業) A:おっと、またつっこみどころ満載の相談が届きました。毎回「ちょうど隣りに」と言いつつ都合のいい人物に登場してもらっていますが、それもやや不自然なので、ここは喫茶店で私はマスターということにします。ちょうどカウンターで、OLからライターになって10数年のキョウコさんがコーヒーを飲んでいるので、この若者にカツを入れていただきましょう。あっ、ごめんなさい。キョウコさんもいちおう若者でしたね。  ムカつく言い方ね。ま、いつものことだけど。なになに、小説家になるほどの才能はないからライターになりたい? 30までには答えを出したいと焦っている27歳? ライターをナメてる上に決断力のカケラもなくて、ダメにもほどがあるわね。  私も若い子から相談を受けることがあるけど、「いつかなりたい」って言ってて、そのあと本当にライターになろうとした子は見たことないなあ。「私、向いてるでしょうか?」とか「ライターで食べていけるでしょうか」と聞いてくる子も、絶対になろうとしないよね。  年末に久しぶりの新作が公開されるってことで、映画の「スターウォーズ」が話題になってるけど、エピソード5「帝国の逆襲」の中で、ピンチの場面で「やってみます」とか何とかグズグズ言ってるルークに対して、ヨーダがこう言ったの。 「やってみるではない。やるか、やらぬかだ。試すなどない」  原文は「No! Try not. Do or do not. There is no try.」よ。悪いこと言わないから「やってみたい」ぐらいだったら、やらないほうがいいわよ。あなたみたいなのに同業者ヅラされたら迷惑だしね。とにかく無鉄砲に飛び込めと言いたいわけじゃなくて、やるしかないって強い気持ちがないなら、今の仕事を続けていたほうがいいわよ。こう言っちゃ何だけど、ライターって外から見てるほどカッコよくも楽しくもないし、儲かる仕事でもないしね。  後悔でも何でも、どうぞご自由に。あなたにとっては、オヤジになったときに酒を飲みながら「俺、本当はライターになりたかったんだよね」とか言うのが、ライターという仕事とのベストな付き合い方なんじゃないの。そうだ、それだったら、ライターにこだわる必要はなくて、あなたがもっと偉いと思っている「小説家」でもいいわね。  と、好き勝手に言いましたが、こんなふうに言われても「やっぱりやりたい」と思って行動を起こすなら、心から応援します。がんばってください。カッコよくなくても儲からなくても、私はライターという仕事が大好きです。最後にヨーダのこの言葉を贈ります。「フォースとともにあらんことを」

【今回の大人メソッド】悩む前に動いていないようなら、やらなくてもいい

 夢とやらに向かって「行動を起こすべきか否か」という悩みは、結局のところヒマつぶしの域を出ません。現実逃避か、あるいは行動を起こす気がない自分への言い訳を探しているだけです。もし自分がそういう悩みを抱いたら、「ということは、やらなくてもいいのかも」と自覚しましょう。本当にやりたいなら、悩む前に何か行動を起こしているはずです。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)