原発再稼働の口実? 時代遅れの「ベースロード電源」という発想
4月2日、政府自民党は2030年の総発電量に占める「ベースロード電源比率」を2010年時点と同じ6割に戻すという方向で検討に入った。その割合から計算すると、現在稼動していない原発による電力供給が、2割程度必要になってくるという。
「ベースロード電源」とは、政府の定義では「原子力、石炭火力、水力、地熱など、昼夜を問わず安価で一定の電力を発電できる電源」を指している。日本政府の電力供給の考え方としては「まずはそれらの電源をベースにしつつ、電力の需要に応じて燃料費の高いガス火力や石油火力などの調整電源を活用する」という考え方だ。
その「ベースロード電源」は、原発がほとんど動いていない2013年時点では4割だった。それを2030年に6割まで上げるとなると、二酸化炭素を大量に排出する石炭火力を増やすわけにはいかない。そこで上積みの2割を原発でまかなおうということになる。
エネルギー基本計画で「原発依存度を可能な限り下げる」と謳っている政府だが、この計算によれば「限界まで下げても原発は2割必要」という結論になる。それと同時に「不安定」とされる太陽光や風力などの自然エネルギーは、優先順位が低く位置づけられると想定されている。
しかし、スウェーデンでエネルギー庁長官を務めたトーマス・コーベリエル氏(自然エネルギー財団理事長)は、電力自由化の進んでいる欧州では「ベースロード電源」という考え方そのものが、もはや時代遅れの発想になっていると語る(※)。
その背景には、国際的な基準では「ベースロード電源」の定義が日本政府の考えとは異なり、「建設費用は多少かかるが、燃料や運転コストが最も安い発電所」のことを指すことにある。そのような意味では、すでに欧州の多くの国では「ベースロード電源」を、燃料費がかからない太陽光や風力が担っているのだ。
日本では行われていない、地域をまたいでの送電網の運用。高度な気象予測技術。そしてリアルタイムで透明性の高い電力市場。欧州ではそれらを組み合わせることで、太陽光や風力が大量導入され、需給調整が行われている。日本では、自然エネルギーは不安定で頼りにならないかのように伝えられているが、世界の常識はまるで違った方向に動いているのだ。
2014年のデンマークは、風力発電だけで年間の電力の39%をまかなった。今や多くの国々が、燃料費がかからず二酸化炭素も排出しない自然エネルギーを電力供給の中心にすえている。そのうえで、調整電源として火力などを動かすという運用を始めている。
自然資源を最大限に活用するこうした新しい方法をとらず、原発比率を上げる「ベースロード電源」にこだわることは、果たして賢明な選択と言えるのだろうか。前述のコーベリエル氏による「日本の産業界や消費者は、このような資源の浪費をなぜ容認しているのか」という問いかけに、私たちはどう応えるべきだろうか?
※コメントは2014年4月の自然エネルギー財団コラムより
http://jref.or.jp/column/column_20140228.php
<取材・文・写真/高橋真樹 著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など>
原発は最低でも2割必要!?
欧州では「ベースロード電源」を自然エネルギーが担っている
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)。昨年末にはハーバービジネスオンラインeブック選書第1弾として『「寒い住まい」が命を奪う~ヒートショック、高血圧を防ぐには~』を上梓
『ご当地電力はじめました!』 地域の電力は自分たちでつくる!各地でさまざまな工夫をこらして、市民主導の「ご当地電力」が力強く動き出しています。 |
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