決して他人事ではない「定額¥働かせ放題」法案

労働者

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 4月3日、ついに閣議決定した労働基準法改正案。HBO読者にとっても、他人事でない話題なので、注視していた方もいるかもしれない。  各メディアでは盛んに「成果で年収が決まる」とか「ダラダラ残業をなくして成果で報酬を決める」などと喧伝されており、「それならいいじゃん」と思う人もいるかもしれないが、実はあの改正案、よく読めばまったく違うのだという。  ブラック企業被害対策弁護団代表である弁護士の佐々木亮氏に聞いた。 ⇒【前編】労基法改正案の新制度は「定額¥働かせ放題」! http://hbol.jp/32606

労基法改正推進派の言い分はミスリードだらけ

 報道では、「成果で報酬が決まる」などと書くメディアが多かったが、実際の法案要綱にはそんなことはどこにも書いていなかった。  しかし、ダラダラ残業がなくなり公正な評価が行われるのではと思う人もいるかもしれないが、そこも誤解だという。 「そもそもダラダラ残業が――と言いますが、どの労働実態調査を見ても、時間外労働をする理由は『業務量が多い』という理由が圧倒的に多いんです。収入を増やすために残業するという人も中にはいるでしょうが、そこまで多いわけじゃない。確かに、ダラダラ残業については、職場にそういう人がいると腹が立つためサラリーマンにとっても怒りの対象として認識しやすいでしょう。『俺が8時間で終えた仕事をあいつは◯時間かけて多い給料を貰ってる』という不満は出ることもあるでしょう。しかし、それは法律を変えて対応するような大げさなものではなく、企業が適切な時間管理をすることで対処できます。そもそも業務量が多いから残業しているという声が圧倒的に多いのに、ダラダラ残業という言葉を用いてそれが主流かのように喧伝するのは印象操作です」  また、この法案で特筆すべきは、敢えて「健康確保措置」などという珍妙な文言で書かれた部分にあるという。 「労働基準法で定められた労働時間や休憩、休日に関する規定から除外対象になる代わりに設定されるものなんですが、その文言がざるだらけ。字面だけなら『13時間、休憩なく、360日(5日は有休)働かせてもOK』というむちゃくちゃな解釈もできるのです。この点を指摘された塩崎恭久厚労相も『理論的にはそうなる』と認めてしまったほどです」  それでもまだ他人事だと思う人もいるかもしれないが、今回の改正案はもう一つの改悪があるという。 「実は今回改正案の恐ろしい点は高度プロフェッショナル制度だけじゃないのです。それは『裁量労働制の対象拡大』です。裁量労働制は簡単に言うと、決まった労働時間を設定して、どんなに長く働いても、どんなに短く働いても、その設定した労働時間働いたとみなす制度ですが、そもそもこの制度自体、『労働者の裁量で決める』というと聞こえはいいけど業務量は変わらないわけで、過労死などの温床になっていたのです。そんな制度の対象を営業職にも拡大しようとしています。一応、課題解決型提案営業が対象としていますが、いまどきの営業マンは多少なりとも顧客のニーズに合わせてカスタマイズすることなどするのは当たり前なわけです。そしてここには、年収についての定めもなく、高度に専門的であるなどの縛りもない。いわば、ハーバー・ビジネス・オンラインの読者の営業マンは誰でも可能性があるってことです」 ⇒「『定額¥働かせ放題』、法案要綱に書いてないことを報じたNHK」に続く http://hbol.jp/32623佐々木亮佐々木亮●弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。ブラック企業被害対策弁護団代表。ブラック企業大賞実行委員。首都圏青年ユニオン顧問弁護団。民事事件を中心に活躍。労働事件は労働者側のみ。(Twitterは@sskryo) <取材・文/HBO取材班>