SNSの「予約機能」拡充で飲食店の“キャンセル問題”が深刻化!?

 3月下旬、Facebookがメッセンジャー機能の拡充を発表した。海外の報道では”Is America ready for Asian-style mega-messengers?”という見出しがつけられていた。Facebookメッセンジャーも数ヶ月以内にデビッドカードでの決済が可能になり、飲食店の予約もできるようになる見通しだという。アメリカのみでサービスインすると見られているが、ざっくり言うとFacebookメッセンジャーの「LINE化」である。 スマートフォン LINEは昨年末、「LINE Pay」でモバイル決済サービスを開始。1月にスタートした「LINE TAXI」で配車されたタクシーの決済もでき、サービスごとの連携性も高い。複数人で予定を調整できる「LINEスケジュール」で予定をすりあわせて、「LINEいますぐ予約」で店を予約することも可能になっている。ありとあらゆるサービスを取り込み、インフラとしての機能を高めている。食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏は今後の展開をこう予測する。 「今後、サービス事業者による国内での飲食店の囲い込みは熾烈になると思われます。現在でも『食べログ』『ぐるなび』などのほか、クーポンサイトやYahoo!などのポータルにも予約機能があります。当然ながらシステムの一元化はできないので、個別対応になってしまう。チャネルを絞り込むことができない店は、負担が増えてしまっています。ただ9万軒近くの飲食店がある東京に店を構える側が、チャネルを切り捨てる勇気が持てないのも理解できます」  東京はミシュランの星を世界でもっとも多く保持する都市だ。当然、各飲食店にとっての競合も多い。加えてこの十数年、東京の飲食店の原価率は過去にないほど高くなっているという。 「20年ほど前まではFLコスト(食材と人件費の合計コスト)は、食材原価35%+人件費25%程度――つまり合計60%程度に抑えるのが常識だと言われてきました。しかしデフレや格安チェーンの台頭に加え、『ブラック企業批判』などもあり、現在ではほとんどの飲食店が65~70%以上になっている。業態によっては食材原価率だけで50%という店もあります」(松浦氏)  選択肢は薄利多売か、高単価少数客向け業態の二極になった。そしてさらに現在、飲食店を悩ませているのが、「キャンセル」問題だ。都内で営業するダイニングバーの店主は最近の客の傾向についてこう語る。 「うちは地元客4割、よそから来てくださる方が6割くらいの比率ですが、特におなじみ以外の方、それもネットを見て予約された一見客のキャンセルがこの数年で増えました。10名の団体が直前キャンセルとなると、人件費どころか材料費だけでも足が出るから、仕方なくFacebookなどで『団体キャンセル出たから、誰か来て!』と書き込んで、親切なおなじみさんに助けてもらう。本当はそれも心苦しいけど、そうしないとリアルに大赤字。正直、ネット予約は一定の前金をいただきたいくらいですよ」(世田谷区・飲食店店主)  前出の松浦氏は、その案に一考の価値ありという。 「海外のレストランでも団体などの場合、デポジットを取る飲食店はありますよね。結局、口を開けば『コスパコスパ』としか言わない『お客様は神様』だと勘違いした客が諸悪の根源で、ほとんどのまっとうな客はデポジット料をとろうがきちんと来店するでしょう。LINEなどの決済機能を持つ通信事業者は、デポジット料を徴収するというサービスで、飲食店を確保するという手はあると思います。店側もデポジット枠には特典をつけたり、予約の取れない繁盛店ならデポジット席を用意してもいい。もしその日の空席が埋まったら、デポジット分は次回来店時のサービスクーポンを発行して割り引けば、リピーターの発掘にもつながる。行列のできる”観光店”が増えるなど、店と客の関係が変わった以上、そこに新たなルールや仕組みをつくるのは、自然なことだと思います」(松浦氏)  情報インフラの充実により、ネット上での情報共有は劇的にスピードアップした。その新しい仕組みが、従来とは異なる客層を店内に呼び込み、客と店の間に溝を作ったとするならば、その溝を埋めるのもまたインフラの仕事であるはずだ。 <取材・文/高田純造>