電力小売り完全自由化で「自然エネルギー」は選べるようになるのか?

 2016年度「電力小売りの完全自由化」が予定されている。実施されれば、大手電力会社の電気しか使えなかった一般家庭でも、電力会社が選べるようになる。しかし「自然エネルギーの電気は選べるのか」と、早くも制度の実効性を疑う声が上がっている。

買い取り上限値は「全原発稼働」を前提とした数値

「昨年秋から電力会社が、自然エネルギーの発電事業者が事実上連系(送電線への接続)を拒否している。このままでは、自然エネルギーで発電する電力会社を選びたくても選べません」  そう指摘するのは、「市民電力連絡会」の竹村英明さんだ。  太陽光など自然エネルギーの発電事業者から系統接続の申し込みが相次いだため、九州電力などの大手電力会社が、突然これらへの接続についての回答を保留した。それを受けて政府は今年1月までの間に、FIT(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)の見直しを実施。太陽光や風力による電気の受け入れ上限値を定めた「接続可能量」を、新たに設定した。  さらに、北海道電力だけに特例として認められていた「指定電気事業者制度」を、東京、中部、関西を除く7つの電力会社にも適用。「接続可能量を上回る場合、無制限・無保証で電力の買い取りを抑制できる」と制度変更された。 「しかし、接続可能量の算定には、日本の全原発稼働という、いわば『あり得ない状態』が前提となっている。ですから、『抑制』が必要な状態はおそらく生じないでしょう」(竹村さん)

大手電力各社が水際作戦を発動!?

自然エネルギー電力を選べるような環境作りをめざす「パワーシフト・キャンペーン」が発足した=3月9日、東京都内で

 しかし、買い取り抑制に上限はなく、抑制にともなう発電機会損失への補償もない。そのため7電力会社のエリアでは、新たに接続を希望する発電事業者が事業プランを立てることも、金融機関の融資を受けることも困難になった。 「発電事業者との事前協議の段階で、電力会社が『接続可能量を上回るため、設備認定(※)できない』と『ゼロ回答』するケースもある」と竹村さん。いわば自然エネルギーの設備認定量を低く抑えようと、電力会社が“水際作戦“を行っているとも言える。 ※設備認定=設置した発電設備が法令で定められた要件に適合しているかどうかを国が確認、固定価格買い取りの条件となる。  電力小売りの完全自由化に伴い、多様な新電力(PPS、特定規模電気事業者)の市場参入が可能になった。各地ではエネルギーの地産地消をめざして、自治体や住民が新電力を立ち上げようとしている。  ところが、FITの運用見直しや電力会社の“水際作戦“によって、発電事業者や地域主体の新電力が電力市場に参入するハードルは高くなっているのだ。  FIT法では自然エネルギーを優先的に導入することを定めており、一部の弁護士は「原発を手厚く優遇したFIT法運用の見直しは違法の可能性がある」と指摘する。FITや電力自由化の趣旨が歪められていないか、注目する必要がある。 <取材・文・撮影/斉藤円華>