「国民の8人に1人が国外難民」。終わりの見えないシリア情勢

 後藤健二さんら日本人2人が殺害された事件から約2か月が過ぎ、イスラム国やシリア情勢に関する報道は非常に少なくなってきた。現地は今、いったいどうなっているのだろうか?

シリア国民の8人に1人が国外難民に

難民キャンプのテントで学校の宿題に取り組むメイサちゃん(9歳)。10人の一家が2年近く、1つのテントでの生活を続けている

 継続的にシリア難民の取材を続けているフォトジャーナリストの安田菜津紀さんに話を聞いた。安田さんは今年2月にもシリア難民の取材を行い、帰国したばかり。  イスラム国を抱えるシリアでは、2011年にアサド政権と反政府勢力との内戦が始まり、2014年だけで7万6000人以上が戦争で死亡。これまで国外に脱出した難民の数は300万人にのぼる。国民の8人に1人が国外難民という状況だ。 「ヨルダンとの国境にあるザータリ難民キャンプはこれまで3回取材しました。難民キャンプは国連が管理していて、難民の数は8万人にのぼります。砂漠のなかにあるようなキャンプで、住居はテントやプレハブ。周囲を柵や土手で囲まれていて、基本的に許可なくキャンプの外に出ることは許されません。(※)

キャンプ内で頻繁に目にする三ツ星の国旗は前政権のものだ。現政権への抗議の意を込めて身に着けているのだという

 国連から食料やクーポン配給はありますが、必要最低限のものだけです。内戦の終結が見えないため、終わりの見えない難民生活にかなり疲弊しているように感じました」(安田さん) ※それでも目を盗んで、外へ働きに行ったり物を買いに行ったりする人々の姿も見受けられる。  内戦が長期化していることもあり、住民のほとんどは誰かしら近親者を亡くしている。 「家族がいる人たちは『子どもを守るためにキャンプに残る』という選択ができます。しかし、子どものいない独身男性の場合は『シリア国内に戻って反政府勢力に参加する』という人もいます」(安田さん)

揺らぐ“平和国家・日本“のイメージ

 難民といっても、避難前の経歴はさまざまだという。 「私が取材したある男性は、避難前テレビ局のプロデューサーでした。危険の高い陸路での避難を避け、全財産をはたいて7人の子どもと奥さんとともに空路でヨルダンに避難してきました。能力の高い方なので、ヨルダンで仕事を得られるという考えがあったのかもしれません。  ですが、難民はヨルダン国内で仕事をすることが許されていません。砂漠のなか無一文で、配給に頼る生活にならざるを得ませんでした。『何もしてはいけない』という生活は難民たちを精神的に追い詰めています。そのため、男性たちは奥さんや子どもに当たることが多くなっていきます」(安田さん)

夕方になると砂埃がキャンプ一面を覆う。子どもたちの肺の疾患も増えているという

 難民キャンプでは日本のNGOも活動中。精神的に厳しい状況にある子どもたちに情操教育などの支援を行っている。 「彼らの活動は、現地でとても好意的に受け止められています。シリアの人たちは非常に親日的です。多くの人が広島・長崎の原爆投下を知っていますし、戦後の瓦礫のなかから立ち直って発展した日本を尊敬していて、『シリアを日本みたいな国にしたい』と話す人もいます。  ところが、米国主導の有志連合に加わるなど、イスラム世界ではどんどん“平和国家・日本”のイメージが崩れてきています。それでもまだ、日本に希望や憧れをもっている人たちも多いのです。日本が彼らの信頼を失わないような“平和国家”でいられるのかどうか、私たちも見つめ直さなければならないと思います」(安田さん)  現地情報が乏しい今、安田さんのようなジャーナリストたちが伝えてくれる情報は貴重だ。今年秋には、安田さんが撮り続けたヨルダンのシリア難民の写真展が予定されている(詳細はhttp://yasudanatsuki.com/で後日告知)。いちど足を運んでみてはいかがだろうか。 取材・文/白川徹 写真/安田菜津紀 【安田菜津紀写真展「君が生きるなら−HIVと、子どもたちと−」】 オリンパスプラザ東京:2015年4月9日(木)~4月15日(水) オリンパスプラザ大阪:2015年5月7日(木)~5月14日(木) ともに10:00~18:00(最終日15:00まで) 入場無料 日曜・祝日休館