「介護人材不足を外国人移民で補う」との発想は「安易」と現場の声

介護職

介護職には技能やコミュニケーション力など、高い専門性が求められる

 今年2月に産経新聞に掲載された作家の曽野綾子氏のコラム。「居住区だけは人種ごとに分けて住む方がいい」と主張したところ「アパルトヘイトを肯定するのか」と批判が噴出し、南アフリカ駐日大使が抗議する事態にまで発展した。  しかしこの騒動では「人種隔離」のことばかりが問題視され、「介護のための労働移民には資格や語学力などのバリアは不要」と主張している点への指摘が見落とされていた。「介護不足は外国人で補えばいい」「労働移民にスキルは不要」との考えだ。本当にそれでうまくいくのだろうか? 介護の現場に詳しい識者に聞いてみた。

人口1億人維持のため、移民を年間20万人受け入れ!?

「どこの国にも、孫が祖母の面倒を見るという家族の構図はよくある。孫には衛生上の専門的な知識もない。しかし優しければそれでいいのだ」「『おばあちゃん、これ食べるか?』という程度の日本語なら、語学の訓練など全く受けていない外国人の娘さんでも、2、3日で覚えられる」(曽野氏コラムより)  介護に専門的な能力は不要で、だからこそ日本語がおぼつかない外国人でも迎え入れ、介護分野の労働力不足を補うべきだと曽野氏は言う。そして日本政府も、アベノミクスの成長戦略の下、外国人材の活用に前向きだ。背景には人口減少にともなう経済停滞への危機感がある。  内閣府は昨年2月、「移民を年20万人ずつ受け入れ、出生率も回復した場合、100年後も人口1億1000万人程度を維持する」との試算を示した。これは一つのシナリオに過ぎないが、国も労働移民を実施する将来像を描いていることがわかる。

介護は技能職。高いコミュニケーション能力も必要

 ところが現実はどうか。曽野氏のコラム掲載に先立ち、厚生労働省の有識者検討会は、外国人介護人材の受け入れに関する「中間まとめ」を発表した。  この中で、外国人技能実習制度の対象職種に、新たに介護分野を加えることを認める一方、今後の介護人材の確保は「国内の人材確保対策を充実・強化していくことが基本であり、外国人を介護人材として安易に活用するという考え方は採るべきではない」とした。  検討会に参加した日本介護福祉士会は「介護を要する高齢者は認知症患者が多く、今後も増えるだろう。認知症の介護には対象の人生歴への理解など、高いコミュニケーション能力が問われる。外国人が介護職に就くには、知識や技術に加えて、日本社会そのものへの理解も必要で、それには高い日本語能力の習得が欠かせない」(同会担当者)と指摘する。  同じく検討会で議論に加わった、日本生産性本部の北浦正行参事も「介護職に技能は必要。コミュニケーション能力も大事だ」と話した。  日本ホームヘルパー協会の因利恵会長は「介護人材不足は、外国人の受け入れでは解決しない」との見方を示す 「介護における慢性的な人材不足の原因は、低賃金により介護職員の将来展望が開けないこと。そして、介護業務にともなう身体的・精神的な問題を抱え込み離職してしまうことなどが考えられる。それらの解決に、外国人労働力の受け入れが有効とは思われない」(因会長) 「激務のわりに低賃金」。介護職の厳しさはつとに知られるところだ。こうした実情に手をつけないまま「人材不足を外国人で補おう」という発想は安易だろう。 <取材・文/斉藤円華>