朝から中国人観光客で賑わうソウル明洞
日本でも春節期間中の中国人観光客による「爆買い」が話題となったが、お隣、韓国ではさらにすごい事態が起こっている。
韓国文化観光研究院によると、2014年訪韓外国人は1420万人と日本を上回っている。そのうち、訪韓中国人は612万7千人で全外国人の実に43.1%を占める。つまり韓国を訪れる外国人の2人に1人は中国人となる(※韓国の統計は、入国しないトランジット客や航空会社の機内乗務員も訪韓者に数えている)。
同院による統計は1975年から発表されており、38年間、日本が1位だったが、2012年8月以降の日韓関係悪化の影響もあり、訪韓日本人は減少し、2013年に中国が1位なり入れ替わった。
2014年訪韓日本人は、228万人と3年連続で減少。一方、中国は、2012年の282万人から3年間で平均47%増と脅威の急増を続けている。
訪韓中国人急増の原因はどこにあるのだろうか?
その理由は、目を疑うような価格で中国発の韓国ツアーが提供されていることにあった。たとえば、3泊4日で980元(約1万9000千円)など超激安ツアーが存在するのだ。ツアーなのでこの価格でチケット、ホテル、食事付だ。
試しに著者が、シートリップなど大手旅行サイトで大連-仁川の往復航空券を検索するとチケットだけで2000元(約3万9000円)前後するので、激安ぶりがおわかりかと思う。
食事は2回のみショッピングも少なくなっている中国人向け格安ツアー日程(大連市海外旅遊有限公司提供)
大連のある旅行会社によると、大きな要因の1つは、中韓両政府による「国策での値下げ、ダンピング」である。例えツアー料金は赤字でも、免税店などのショッピングを大量に組み込み赤字を補填しているという。確かに爆安ツアーの日程を見ると、1日でショッピングが6、7か所も組み込まれていた。この日程では、観光せずにひたすらショッピング巡りとなるだろう。
そのため、ツアーの利益は0元で利益なしだが、1人成約すると200、300元(3900円~5800円)のキャッシュバックがあるという。これがショッピングで稼いだ分からの補填となるわけだ。
つまり中国側の旅行社は、ツアーの販売による利益はなしで、後からのキャッシュバックを受け取る仕組み、いわば日本の携帯電話販売代理店がただで端末を配っていたのと同じ仕組みになっているのである。
しかし、問題も多い。前出の旅行社の社長(朝鮮族)によると、ホテル、食事、バスなどいずれも目も当てられないほどひどく、特に食事は、連日同じ食堂へ連れていかれて、野菜とご飯、即席麺だけの鍋。中には使い回しているのか腐ったものも出てくる状態で、参加者からクレームも絶えないという。
中国で大勢を構成する漢民族は、日本人と比べると食事は大雑把で、味について文句を言うことは滅多にないそうだが、そんな大陸気質の中国人ですらクレームを口にするひどい状態なのだというからそのレベルは想像に難くない……。
ホテルも中国の出稼ぎ労働者が泊まるような蛸壺状態の部屋だったりと軒並み参加者の満足度は低く、同時に韓国に対する心象も芳しくないものになってしまうという。
もっとも、参加する中国人旅行客も韓国の観光地などには興味がないらしく、日程では有名観光地訪問も組み込まれているがキャンセルして免税店巡りを希望する人が多く、結局のところひたすら買いまくるショッピングツアーになるという。
参加者からのクレームが多いため爆安ツアーを取り扱っていない大連市海外旅遊有限公司は、2泊3日で1666元(約3万2000円)からで、基本食事なしで自分たちで食事してもらうツアーを提供している。爆安ツアーの2倍近い旅行費だが、爆安ツアーよりこっちの方が満足度が概ね高いという。これでも、仕組み上、1日2、3か所のショッピングは組み込まれているが、爆安ツアーと比べるとかなり少ない。
また、基本食事はないが、ツアーでの食事は美味しくないことがあるとの事前告知を渡して承諾を得ているというので、ずいぶんと良心的である。
中国語と日本語が並ぶ両替案内(明洞の銀行)
訪韓中国人612万人という勢いを後押しする爆安ツアーの問題点は、ショッピングツアーとなっていることであり、総合的な満足度が低いことにある。このため、韓国自体への心象も悪く、結果的に韓国のイメージダウンとなっているのではないかと思われる点だ。
しかし、韓国政府が率先してこの爆安ツアーを推し進め韓国内の中国朝鮮族経営の中国人専用旅行会社が爆安ツアーを支えているというのが現実だ。もし、このまま中国からの爆安ツアーが増え続けると観光収入は得られる一方、韓国は、長期的に国益の損ねることになるのではないだろうかとさえ思えてしまう。
そんなこともあって、最近ではツアーではなく個人で韓国を訪れる中国人も増えており、彼らに会って話すと、買い物もするが、観光地や韓国の文化や街並みも楽しんでいるという。
<取材・文・撮影/我妻伊都>