和食文化消滅の危機。日本の食卓を守るのは消費者とスーパー

 2013年、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された。そのことが象徴するように、豊かな海に囲まれた日本の文化や暮らしは海や魚との極めて深い関係の中で構築されてきた。  しかしその一方で、海から魚が次々と姿を消しつつある。

マアジ、マサバ、スケソウダラ、ホッケの資源状態も悪化

マグロ 現在、日本の食卓に並ぶ魚介類の約70%はスーパーマーケットで購入されている。日本には2万店を超えるスーパーマーケットがあるが、どの店でも年間を通じ、絶滅危惧種に指定されているマグロ類やウナギ類が比較的安価で売られてきた。この背景には、世界中の海で続けられている破壊的な漁業がある。  例えば太平洋クロマグロは初期資源のおよそ4%しか海に残されていないにもかかわらず、総漁獲量のおよそ95%以上が海に卵を残したことのない未成魚で占められている。これでは海に魚が増えるはずがない。 「天然の本マグロ」ブランドを薄利多売しようとする小売の需要に応えようと、水産会社は未成魚や産卵直前の群れを一網打尽にしている。同様のことがウナギ類や他の多くの魚においても起きており、このままでは将来的に海と食卓に魚を残すことはできないかもしれない……私たちが直面している事態は深刻だ。  2014年には二ホンウナギや太平洋クロマグロと言った和食を代表する魚が、相次いで国際的に絶滅危惧種に指定された。また、マアジ、マサバ、スケソウダラ、ホッケ等の食卓になじみ深い多くの魚も、極めて悪い資源状態にあることが水産庁の発表 により明らかになった。  なぜこのような資源状態の悪化が進んでいるのだろうか?

最も漁業資源に配慮しているスーパーは?

マグロ 国際環境NGO グリーンピース・ジャパンは、絶滅危惧種や乱獲された魚介類の薄利多売を問題視。行政や小売りへの働きかけを継続して行っている。その取り組みの一環として、大手スーパーマーケットの魚介類の調達方針を定期的に調査・評価し「お魚スーパーマーケット・ランキング」という形で公開。その第4弾として、大手5社(イオン、イトーヨーカドー、西友、ダイエー、ユニー[アピタ])に対してアンケート調査を行い、魚介類の調達方針に関するランキングを2月に発表した。  その結果は、1位イオン、2位イトーヨーカドーと西友、4位ダイエー、5位ユニー(アピタ)。各社評価の違いは、魚介類の持続可能性の追求を目指す調達方針の有無、認証マークの付いた商品の取り扱いの有無によって評価に差が出ている。  首位のイオンは「イオン持続可能な調達原則」と「イオン水産物調達方針」を制定し、大きな改善が見られた。また、環境負荷を考慮した認定商品などの取り扱い量は増加傾向にあり、違法漁獲された商品の撲滅やトレーサビリティ体制が確立された商品の積極的な取り扱いが増えている。しかし一方で、依然として絶滅危惧種や乱獲された魚が広く取り扱われている実態も明らかになった。各社ともに持続可能性や環境配慮に対する認識は高まってきているが、いかに実際の調達に盛り込むかが急務の課題だ。

豊かな海と魚を次世代に残すには

 2016年にはワシントン条約締約国会議が開催され、太平洋クロマグロやニホンウナギなどの深刻な資源状態が再び大きな話題となるだろう。2020年には東京オリンピックが開催され、日本の魚介類の扱い方が世界に晒されることになる。豊かな海と魚を次世代に残すには、大規模な水産企業や商社による持続可能性を無視した漁業や貿易を、行政がきちんと規制する体制を作らなければならない。そして、スーパーなどの小売業者が調達方針を変更していくことで、直接サプライチェーンをシフトさせる必要がある。  アメリカの小売大手ホールフーズなどでは、認証マークの付いた商品が当たり前のように売られており、エコでグリーンなライフスタイルを心がけている消費者から信頼を得ている。小売大手の役割が今後一層重要なものになってくることは間違いない。  そして、より高まる消費者の環境意識の一歩先を行ける企業にしか、未来は残されていないと言っても過言ではない。もしこの競争の波に乗れなければ、近い将来、次世代の食卓から魚を奪い、“和食の土台を崩壊させる企業”としての責任を問われる日が来るかもしれない。 文/小松原和恵(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン) 参考資料:http://www.greenpeace.org/japan/seafood4/