達成動機理論からは、賃金以外の労働者が仕事を通して満たしたい欲求として、以下の4つが挙げられる。
・親和欲求
職場で同僚と仲良くなったり、頼れる・理解してくれる上司を持つなど、
よい人間関係を築きたいという欲求だ。
コロナによるリモートワークが続いて、職場でふとしたときに雑談をしたり、声をかけて関係を作る機会がなくなったため、親和欲求が強い人は働くことに対するモチベーションが上がりづらくなったかもしれない。
・支配欲求
出世やリーダーを任せられるなど、会社のなかで
指導的な立場や地位になりたいという欲求だ。
・達成欲求
自分の目標を達成したり、与えられた仕事をこなすなど、
自分の能力を活かして問題を解決したいという欲求だ。
達成欲求の強い人は、「みんなで仲良くプロジェクトを達成しよう」といった親和欲求の強い人に好まれる集団でのプロジェクト達成よりも、一人で仕事をやり遂げることを好む。
とにかく自分が達成感を味わえる仕事を好み、成績は優秀なので部下の教育係に任命されやすいが、実際に任せてみると部下の成長は直接的に自分の達成欲求を満たすわけではないので、成果を出しづらい。そういう場合は、
部下の教育で何を達成すると評価されるのか明確にしておくことが重要だ。
・回避欲求
達成欲求とは逆で、
失敗をしたくないという欲求だ。この欲求が強い人は仕事に対して消極的で、新しい挑戦や昇進のチャンスを掴もうとせず、
同じ業務を繰り返して失敗を避けたいという欲求がある。
すべての人が多かれ少なかれ、これら4つの欲求を持っている。部下の動機づけをするには、まず、その人がどの欲求によって仕事をしているかコミュニケーションを取るなり、
成果の出るタイミングや、
やりがいを感じる瞬間を分析する必要がある。
例えば、達成欲求の強い人だった場合は、「
達成しやすい目標を与えて達成できると褒める。次は少し難しい目標を与えて達成できると褒める」のように、動機づけする。
達成欲求が強くて仕事ができても、親和欲求や支配欲求が強くない可能性がある場合は、優秀だからと言ってチームを任せないほうがいい。「
やっぱり自分でやったほうが速い」と思ってしまうかもしれないからだ。
誰にでも「ニコポン主義」で動機づけするのではなく、相手を一人の人間として考えて、コミュニケーションや動機づけの仕組みづくりをする必要がある。
リモートワークで部下の顔が見えないからこそ、このような分類方法を使って部下の個性を分類し、それにあったコミュニケーションや仕事のやり方を構築することが、モチベーションアップに効果的だろう。
【参考文献】
『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
『産業・組織エッセンシャルズ』田中堅一郎ほか
『達成動機づけの研究 ― Atkinson の期待-価値説 ―』山内弘継
『達成動機づけ理論に関する実験的研究』中津達雄
<取材・文/山本マサヤ>