会社の設立から5年が経った。1987年に Adobe Systems は、社内で利用してた PostScript 編集ソフトを一般向けにして、Adobe Illustrator としてリリースする。このソフトは Macintosh 向けだったが、1989年には Windows 版も市場に投入する。
そして1993年に、PDF ファイルを作成したり表示したりするソフトウェア
Acrobat を市場に投入する。その背景には、PostScript と Adobe Illustrator で培った技術があった。
しかし、Acrobat は高額なソフトだったために、Acrobat と PDF は普及はしなかった。その後、ソフトの値段を下げ、無料の
AcrobatReader を投入して、Acrobat と PDF は徐々に普及していく(
Prepressure.com)。滑り出しは悪かったものの、この技術は最終的に世界中に広まった。
現在では、多くのソフトに PDF で出力する機能が付いている。Microsoft の Office にもあり、Webブラウザの Google Chrome にもある。
PDF 形式でファイルを出力すれば、どのマシンに持って行っても、同じように表示させることができる。また、元々印刷のための技術から生まれているために、印刷物にしても、見た目がまったく同じになる。
印刷会社の中には、印刷物のデータを PDF ファイルで受け付けているところもある。官公庁の書類が PDF ファイルで提供されることも多い。インターネットで論文や文書を探すと、大量のデータが PDF 形式で配布されている。
PDFは、コンピューター、プリンター問わず、データを作った人と、データを利用する人で、同じ見た目を提供してくれる。PDF は、Portable Document Format の略だ。文書を、ポータブル(持ち運び可能)にしてくれるフォーマットというわけだ。
今では多くの人が、当たり前のように PDF の技術を利用している。この PDF は、2人の小さな会社の技術から始まったのだ。
<文/柳井政和>