新型コロナ禍における「専門家」たちの功罪。 感染者数予測を外し続けてもなお起用するメディア

宮沢准教授の間違いの原因は、風邪コロナとの不適切な比較

 「あさパラ!」の中で宮沢氏は、過去の風邪コロナの流行状況を新型コロナと比べることでこの予測を得たと説明している。宮沢氏は以前にも同じ方法を使っており、例えば、今年2月6日の読売テレビ「特盛!よしもと」では、下図のようなグラフを使って予測を説明している。
図.従来の風邪コロナ(赤線)と新型コロナ(青)の感染者数

図.従来の風邪コロナ(赤線)と新型コロナ(青)の感染者数。横軸の数字は月を表す。今年2月6日の読売テレビ「特盛!よしもと」より。番組の動画は公式ページで観ることができる。

 このグラフを見ると、風邪コロナ(赤線)は2月から5月まで感染者数が減少することが分かる。宮沢氏はこれと同じことが新型コロナでも起こると考え、「(3~4月に感染者数の増加があるとは)思わないですね」と述べている。つまり、宮沢氏は、新型コロナの流行パターンは風邪コロナのそれと同じようになる、と考えたわけだ。  この考えが間違いであることは、新型コロナの情報をよく追っている人には簡単に見抜けるだろう。新型コロナの流行パターンが風邪コロナとはだいぶ異なっていることは、新型コロナの蔓延初期から知られていることだ。3月にはまだ暑いこともある南半球のオーストラリアで、昨年3月に新型コロナの流行が始まったことや、季節が真逆の北半球と南半球の国々で同時に新型コロナの感染拡大が起こっていること等から、新型コロナが風邪コロナのような明白な季節性を持たないだろうことに、多くの人たちが気づいていたのだ。  宮沢氏が行った比較には他にも不適切な点がある。夏の期間に見られる流行パターンの違いを無視していることだ。7~9月の間、新型コロナの感染者数には明らかな盛り上がりが見られる。これは、いわゆる“第2波”が来たことによるものだ。しかし、同期間の風邪コロナには盛り上がりは見られず、感染者数は少ないままとなっている。「特盛!よしもと」の番組中、他の出演者がこの違いに触れたが、宮沢氏はそれを無視している。  以上のような理由から、新型コロナの流行パターンを風邪コロナの流行パターンから予測することは不可能であり、宮沢氏が行った両コロナの比較が「不適切な比較」であることが分かる。宮沢氏は予測結果をテレビでしゃべる前に、自分の行った比較が適切なものかどうかを少し考えてみるべきだったろう。  なお、宮沢氏は3月終盤から少しずつ主張を変え、4月17日に出演した読売テレビ「あさパラS」では「大阪での感染者の急増は予測していました」という趣旨の発言までしている。Twitter上では宮沢氏のこの発言に対し、「宮沢准教授がいかに信頼出来ない人物かを如実に表した事案」、「後出し」、「宮沢孝幸氏、この番組に出て世間の評価が更に悪くなっているよ」等、多くの批判の声があがった。  宮沢氏がメディアで公表した予測が大外れだったことは、この回だけではない。例えば、昨年12月10日には「zakzak」紙上で「東京都の感染第3波はすでにピークアウトしている」と明言しているが、東京の感染者数はその後も増加の一途をたどり、1月7日にはとうとう「緊急事態宣言」が出されるまでに至っている。  各メディアは、外れっぱなしの「感染者数予測」を主張し続ける「専門家」を起用し続けることは果たして妥当なのか、本気で検討すべきなのではないだろうか。 <文/井田 真人(いだ まさと)>
いだまさと● Twitter ID:@miakiza20100906。2017年4月に日本原子力研究開発機構J-PARCセンター(研究副主幹)を自主退職し、フリーに。J-PARCセンター在職中は、陽子加速器を利用した大強度中性子源の研究開発に携わる。専門はシミュレーション物理学、流体力学、超音波医工学、中性子源施設開発、原子力工学。
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