コロナ禍のなか伊勢丹が新宿に「新店舗」?! 新店舗のみならず「新宿」自体を作ろうとする伊勢丹、その理由とは?

「伊勢丹ならでは」の後に「店外散策」も…めざすは「仮想・新宿」づくり!?

 仮想・伊勢丹新宿店の特徴の1つといえるのが、「仮想空間内の人々と交流できる」こと。売場や時間帯によっては実在する店員を模したアバターが接客をおこなうこともあり、店員に直接話しかけて「伊勢丹ならでは」の百貨店らしい案内を受けたり、その道のプロにコーディネートの相談をすることもできるという。ユーザー同士の交流も可能であるため、買い物に訪れている人に直接商品の「クチコミ」を聞いてみるのも面白いかも知れない。仮想空間上ならば実際の売場よりも気軽に話しかけられる…はずだ(最も、筆者が試してみた時間帯は誰も客が居なかったのだが……)。  そして、仮想・新宿伊勢丹のもう1つの大きな特徴が「店外散策も楽しめる」ことだ。店外には伊勢丹から新宿駅東口までの街並みが広がっており、ちょっとした散歩も楽しめる。伊勢丹前にある新宿通りを模した道路上にはバス(路面電車?)のような車輌も運行されており、また同じ三越伊勢丹グループの商業ビル「新宿アルタ」など7の姿も見える。今後は売場も徐々に充実していくと思われるが、この「店外」の活用方法についても気になるところである。
仮想・新宿の街並み

仮想・伊勢丹の店外には仮想・新宿の街並みが。「丸井」や「ビックロ」の姿も見える。

 三越伊勢丹によると、今後は「実在する既存の伊勢丹新宿本店の枠だけに捉われず、他社コンテンツを誘致するなどして、VRプラットフォームの拡大にも挑戦」していくという。  新宿伊勢丹の周辺にはアルタ以外にも三越伊勢丹が所有する建物(旧・三越新宿ビル)に「大塚家具×ヤマダ」と「ビックロ(ユニクロ・ビックカメラ)」が出店しているほか、「丸井」、「H&M」、「紀伊國屋書店」、「無印良品」、「カメラのキタムラ」など様々な小売大手の旗艦店が立地している。  もし仮にこうした近隣の店舗たちも「REV WORLDS」の「仮想・新宿」上に出店し、さらに多言語化が行われるとなればユーザーは一気に数倍に膨れ上がり、コロナ禍前の「新宿の街」のように、世界中の人々で活気あふれる「新宿の分身」が生まれ、近い将来に「『コロナ禍の新宿ロスをREV WORLDSで解消していた』、さらには『REV WORLDSで新宿を知った』という世界中の人々が実際の伊勢丹や新宿の街を訪れて買い物をする」ような時代が来るかも知れない。
大塚家具×ヤマダ

実際の新宿伊勢丹の周辺には三越伊勢丹が所有する商業施設が複数あり、「新宿アルタ」「大塚家具×ヤマダ」「ビックロ」などとして利用される。将来こうした店舗も仮想空間上に再現されれば面白いのだが、果たして――。

 もう1つ、個人的に気になったのは、仮想・新宿伊勢丹ビルで存在感を放つ「いかにもイベントが開催できそうな屋上」の存在だ。  現実の新宿伊勢丹の屋上は「アイガーデン」として四季の花々が楽しめる庭園が広がっており、神社やイベントステージも設置されているが……今後、仮想・新宿伊勢丹でも季節で植物が変化したり、またイベントなどが開催されるようになるのだろうか。  百貨店といえば、永年「文化の発信基地」となってきた場所。三越伊勢丹では伝統工芸は勿論のこと、近年は現代アートの展示・販売や、漫画やアニメ作品とのコラボレーションについても積極的になっている。仮想空間にも買い物以外のアートやエンタメが提供できる場が設けられるならば非常に面白いのだが――。

双方向型ショッピングアプリは「馴染みの店員に会える」と人気に

 コロナ禍における三越伊勢丹の挑戦は、一見「イロモノ」とも思える「店舗のVR化」のみではない。以前から実施していた配信型のライブコマースをさらに充実、昨年からは人気芸人とのコラボショッピングなど新企画も開催されるようになったほか、同社の都内4店(日本橋三越本店、銀座三越、伊勢丹新宿本店、伊勢丹立川店…順次拡大予定)では、インターネットを用いた双方向型のリモート接客を開始。今年2月には専用のスマホ向け「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」をリリースした。  このアプリでは、文字チャットで各売場の店員に欲しい品物についての相談を行うことができるほか、アプリで予約すればオンライン上で店頭を中継するかたちで商品を選んだり、プロへのコーディネート相談など店頭と同様の接客を受けることも可能だ。  このリモートショッピングアプリ、まだまだ発展途上で利用客が少ない「仮想・新宿伊勢丹」とは異なり、開始から半年弱であるものの「店舗に行きづらい時代でも馴染みの店員の顔を見ながら買い物ができる」と好評で、三越伊勢丹によると登録者数はすでに1万人を超えているという。
三越伊勢丹による「リモートショッピングアプリ」イメージ

三越伊勢丹による「リモートショッピングアプリ」イメージ。

 「仮想・新宿伊勢丹」こと「REV WORLDS」は、もともと三越伊勢丹の社内起業制度を発端にスタートしたものだという。「リモートショッピングアプリ」を含め、こうした「単なるオンラインショッピングの充実」のみならず「散策」や「交流」ができるアプリづくり――さらには「仮想・新宿」づくりという壮大な計画は、この「コロナ禍」が無ければ生まれなかったのものではないだろうか。  長引くコロナ禍で百貨店の強みといえる「立地」と「接客」が活かせないなか、以前とは異なった手段で集客をし、そして以前とは異なった手法で百貨店ならではの接客の提供を試みる三越伊勢丹。百貨店の雄の挑戦は、まだ始まったばかりだ。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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