アストラゼネカ製COVID-19ワクチンに欧州医薬品庁が緊急会見。ワクチンに必要な「信用性」を損ねるのは誰なのか?

他のワクチンはどうか?

 迅速開発されたCOVID-19ワクチンは、多くありますが、旧西側先進国において現時点で代表的なものはアストラゼネカ、ファイザー・ビオンテック、モデルナの三種でしょう。  ファイザー・ビオンテックやモデルナのワクチンでも有害事象報告はかなり多い*といえます。CDC(合衆国疾病予防管理センター)やFDA(合衆国食品医薬局)は、因果関係を検討**してはいますが接種の促進を遙かに重視しています。これはトランプ政権の大失政による合衆国の惨憺たる状況からは妥当です。 〈*ワクチン有害事象報告制度(VAERS) :VAERSは、医師がインシデントと感じた場合は登録するものであり、必ずしも因果関係があるわけではないが、インシデントの重要なデータベースである〉 〈**ACIP February 28-March 1, 2021 Presentation Slides | Immunization Practices | CDC〉  しかし、COVID-19による死亡リスクが米欧の1/10〜1/100である本邦では、合衆国とおなじリスクと利益の比較考量はなり立ちません。更に、ワクチンの作用は、有効性にしても有害事象にしても人種、民族、性別、年齢で変わる事は常識です。そして個人差もたいへんに大きな場合があります。従って、海外で作られたワクチンについては慎重な国内治験が必須と言えます。これはワクチン・ギャップ(ワクチン格差)の原因の一つで、それが故にワクチンの国内開発と国内生産は国防の一環として多くの国々で最重視されています。この点においても本邦政府は後ろ向きです*。 〈*本邦も長年ワクチン業界を手厚く保護してきたが、厚労省による天下りと腐敗の殿堂と化し、ワクチン禍や無法行為が長年にわたり相次いだ結果、ワクチンメーカーの保護行政が立ちゆかなくなった。顕著な例が、化血研(化学及び血清療法研究所)による不正事件である。化血研は、事業再建中に熊本震災によって生産設備が大きな打撃を受けワクチン事業を売却・撤退した。【参照】漫画で解説:化血研が業務停止の巻 2016/02/18 毎日新聞〉  今世界で何が起こっているか、世界の事実を直接得ることは誰にでもできます。またCOVID-19に立ち向かう技術は、世界では日進月歩であり、秋にはよりすぐれて安全なワクチンや抗体薬の完成が目指されています。どのみちワクチン獲得に失敗した本邦は、年内の大規模一般接種の開始は絶望的です。それどころか高リスク集団への優先接種ですら大きく遅れています。世界でのCOVID-19ワクチン運用の実績を腰を据えて観察し、分析する時間があります。  基本中の基本ですが、ワクチンは、医療史、科学史上の最も重要な発明の一つと言えます。一方で、完璧な有効性を持つワクチンは殆どありませんし、有害事象のないワクチンは存在しません。  ワクチンという薬理的手法は他の非薬理的手法、薬理的手法と組み合わせて始めて最大限有効に使えるものです。これを抽象化したモデルがスイスチーズモデルですが、本邦には根本的に理解できていない誤った説明や、嘘の翻訳が氾濫しています。
COVID-19に当てはめた場合のスイスチーズモデル

COVID-19に当てはめた場合のスイスチーズモデル。日本語版ウィキペディアの翻訳同図は、きわめて悪質な嘘訳が混入しておりウンコを混ぜたカレーと言った状態であるため使用不能である。抽象的思考のできていない醜悪な事例と言って良い/Wikipedia

 またワクチンには必ず有害事象、副反応が付き纏います。「感染症など存在しない」と同じく「有害事象など存在しない」「副反応など存在しない」という主張は真っ赤な嘘です。ワクチンは、リスクとベネフィット(利益)の科学的かつ合理的な比較考量によってその使用諾否が判断されるものであり、接種の最終判断は、可能な限り最大限透明化された情報に基づき本人と医師が決定するものです。この点で本邦厚労行政は完全に失格し続けています。結果が数多くのワクチン禍であり、不祥事であり、無責任と信用失墜の結果としてのワクチン・ギャップ*です。 〈*本邦は、海外に比してワクチン接種実績、ワクチンの実用化で大きく遅れている。これをワクチン・ギャップと呼ぶ。MMRワクチン(MMRV)やHPVVの著しい立ち後れが深刻であるが、これらは無責任かつ破廉恥な厚労省によるワクチン行政とそれに翼賛する医療右翼、寄生する宣伝屋の責任が極めて大きい。結果、本邦は、先進国としては希有な「はしか」「風疹」汚染国であり、渡航注意対象である〉  繰り返しになりますが、COVID-19への対応においてワクチンの位置づけは、Swiss Cheese Modelがたいへんに参考となります。本邦ではこのモデルを全く理解しない、抽象的思考ができない自称専門家達による虚言が流れていますが、ニューヨーク・タイムズの解説記事*がたいへんに役に立ちます。チーズにくっついているねずみは、ジョークではなく、壁に穴を空ける「偽情報」をねずみとして表現したものです。この偽情報というねずみが日本語版Wikipediaにおけるスイスチーズモデルをまさに示しており、そのうえ本邦におけるスイスチーズモデルの誤った説明が医療業界の一部に氾濫していることは大爆笑するほかありません。科学の基本である抽象的思考ができないことを具現化しており、 極めて程度が低いです。 〈*The Swiss Cheese Model of Pandemic Defense 2020/12/05 The New York Times

ワクチンの信頼を破壊する医療右翼と厚労省

 本邦では、SNSなどで匿名、実名の医師を自称する医療右翼=医クラ(医療クラスタ)によって、今回問題となった有害事象について、「気のせいだ」、「嘘だ」、「関係ない」、「ばっかで〜〜〜〜い」、「反ワクチンだ」などといった知ったかぶり、嘘とプロパガンダが垂れ流されました。これらはワクチンの信用を毀損する最悪の愚行です。こういう医療右翼(医師免許を持ったネトウヨ)には自省も学習ももはや全く期待できず、本邦の医療を汚染する存在です。  本邦は、ジャパンオリジナル・国策エセ科学・エセ医療デマゴギーによって汚染されたCOVID-19対策によって謎々効果やマスク着用文化などによる優位性を大きく損ない、これまでに一万人近くの命を失いましたが、まだ米欧に比して死亡数にして少なくとも10倍は安全な国と言えます。この優位性を最大限活用したいものです。韓国や台湾ほか豪州など見習うべき国々は多くあります。  また今回のワクチン副反応問題に対するEMAとMHRAによる対応は、十分に評価しうるものと筆者は考えています。それに対し、MMR薬害や2価HPVV薬害で最悪の対応をし、現在も続くワクチン行政の信用失墜と深刻なワクチン・ギャップを引き起こしてきた厚生労働省が、COVID-19ワクチンについてまともな事ができるかと言えば、現状では不可能でしょう。  世界と現実を見ましょう。正直に、透明かつ論理的であることがワクチン行政、公衆衛生行政の信用獲得のGolden Standardであり王道です。踏み外せば何をやっても信用されませんし、合衆国におけるタスキギー梅毒実験*のように世紀と世代を超えて公衆衛生・ワクチン行政の信用を失墜させます。 〈*明るみに出たショッキングな人体実験 2011/10/07 Nature ダイジェスト:合衆国で行われた大規模な黒人を実験台にした梅毒人体実験。クリントン政権において初めて公式に謝罪されたが黒人を中心とした有色人種に公衆衛生行政に対する根深い不信感を植え付け、信用を地の底に落とした。結果、COVID-19ワクチン接種においてもCOVID-19による被害がもっとも大きい黒人に加え、ヒスパニックに強いワクチン忌避を起こしている。信用回復に奔走する公衆衛生当局もワクチン忌避の黒人コミュニティも「タスキギーを忘れるな」をキーワードとしている〉  今回のアストラゼネカ製COVID-19ワクチンにおいて発見された致死性の副反応問題は、欧州において、その発生、報告、調査、分析、議論、結論、発表、対策において教科書的な経緯をとっています。今後の推移に強い関心を持ちますが、本邦と正反対にたいへんに科学的かつ論理的でありかつ正直であると筆者は考えます。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ48:第四波エピデミック(8):アストラゼネカ製COVID-19ワクチンに関する緊急情報 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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