大阪維新の会によって「質の高い医療が破壊されてしまった」という話をする時に、よく例に挙げられるのは「
住吉市民病院」の話です。この話はあまりに有名なので、今回は二重行政を理由に統合されてできた「
大阪健康安全基盤研究所」について触れておきたいと思います。
一言に「医療が削減されている」と言っても、それが「病院」であるとは限りません。大阪維新の会は2017年に、1880年設立の警察部衛生課を前身とする「大阪府立公衆衛生研究所」と、1906年設立の市立大阪衛生試験所を前身とする「大阪市立環境科学研究所」を「二重行政」だと言って統合し、ついでに民営化(独立行政法人化)まで強行しました。
大阪府立公衆衛生研究所と大阪市立環境科学研究所は、もともと保健所を指導・サポートする立場にあり、今回のような感染症が発生した際に、迅速な原因究明と被害拡大を防止するための重要な役割を担っていました。研究分野や検査方式がそれぞれ異なり、こんな時こそ役立つはずの機関が、大幅な人員削減と縮小化で、保健所との連携も薄れ、ほとんど機能しないものになってしまったのです。これこそまさに「維新災」であり、「二重行政」にこだわった結果、大阪府民の命を守れなくなってしまった典型例です。
つまり、大阪維新の会のファクトチェッカーは、「医療削減」という言葉をデマだと扱っていますが、大きく「医療」と括った時には当然、そのための研究機関も含まれるわけですから、大阪府内の保健所の数が減っていないことだけを理由に「デマ」と扱うのは乱暴にも程があるのです。
今、吉村洋文知事が打ち出している新型コロナウイルス対策は、
東海道新幹線の下り列車に乗って、新大阪駅で降りた人たちへの検温です。これで新型コロナウイルスの水際対策をしているつもりになっているのです。
言うまでもありませんが、新型コロナウイルスの厄介なところは、
無症状の人がたくさんいるということです。そもそも検温では気休め程度にしかならない上に、東京を出発する人を検温するわけでもなく、既に新大阪駅に降り立った人を検温をして、熱のある人に「保健所に連絡してください」とお願いしたところで、ただでも業務が逼迫して連絡が取れない大阪の保健所はどう対応すればいいのでしょうか。どうせ「しばらくの間、自主隔離してください」と言うに決まっていて、2週間も自腹でホテルに泊まれる経済力を持った人が一体、どれだけいるでしょうか。ましてや、今はどこのホテルも検温をしていて、チェックインの際にいちいち体温を測られるほどです。そこで引っかかったらホテルにも泊まれやしません。
車で来る人も、バスで来る人も、在来線で来る人も、はたまた飛行機で来る人もノーチェックなのに、どうしてわざわざ東海道新幹線の下り列車に限定して検温をするのか。それは、新型コロナウイルスの流行が大阪で起こっているものではなく、東京からの流入によって起こっていると言いたいからだと見ています。それが対策だというなら、ずっとやらなければならないはずなのに、あえて期間限定で取り組むのは、「東京からやってきた発熱のある人は、こんなにいたんだ」と言うためではないでしょうか。「自分たちは悪くない」と言うために、ちっとも対策になっていないことをやって、やっている感を演出しながら、自分たちの正当性は主張していく。この「ファクトチェッカー」も基本的な構造は一緒です。
自分たちが批判されることに対して人一倍敏感なのは、維新がやっていることが「雰囲気」でしかなく、その「雰囲気」を壊されてしまうと支持してもらえなくなってしまうからだと思います。