英語上達のためには「スキーマ」の体得が必要だ。ベストセラー『英語独習法』著者に聞く

多くの英語難民を救った『英語独習法』

image

画像はイメージ(adobe stock)

 『英語独習法』(岩波新書)が昨年末の刊行以来、8万部のベストセラーとなっている。 著者の今井むつみさんは認知科学、特に子供の言語習得と概念発達を専門に研究している人だ。本書がこれだけの話題となったことについて「率直にびっくりしています」と話す。「英語の本なので関心を持つ方がいるとは思っていたが、ここまですそ野が広いとは」。  本書の特徴は、英語学習には時間がかかるとはっきり指摘していることだ。多忙なビジネスパーソンが短期間で効率よく英語を学ぼうという書籍が数多く書店に並ぶなかで、それに逆行する内容だとも言えよう。今井さんは「私が勧める方法は時間を取るし、簡単にはできないものです。英語の熟達のためには時間が必要だと伝わるといいなというのはありました」と話す。  今井さんは英文学や英語学の専門家ではないが、30年以上英語学習を続けているという。そうした実体験を踏まえ、また認知科学の専門家として、英語を学ぶ上で何が必要なのかを本書で解説している。

「スキーマ」とは

 本書の軸となるのは「スキーマ」という概念である。本文を引用すると、「スキーマ」とは「一言でいえば、ある事柄についての枠組みとなる知識」である。そして「『使えることばの知識』、つまりことばについてのスキーマは、氷山の水面下にある、非常に複雑で豊かな知識のシステムである。スキーマは、ほとんど言語化できず、無意識にアクセスされる」という。  たとえば、日本語を母語とする人々は、英語の名詞が可算名詞と不可算名詞に分かれることに戸惑う。しかし英語の母語話者は、言葉を習得する過程で、その名詞に a や複数形の s が付くのか、いつも裸で現れるのかによって、その名詞が数えられるものなのか、水やバターのように不定形で数えられないものなのかを学ぶ。可算・不可算の形と名詞の種類を結びつける「スキーマ」が作られ、そこから知らない名詞の意味を推論するようになる。こうした「スキーマ」が身に付いていないと、いつまで経っても、可算名詞と不可算名詞の扱いを間違えることになってしまう。  逆に日本人の母語話者であれば、「触(さわ)る」と「触(ふ)れる」が異なること、そのため「べたべたと触(さわ)る」は自然だが、「べたべたと触(ふ)れる」は不自然であることがわかる。たとえその理由を説明できなくても、直感的に不自然だと感じるだろう。こうした“暗黙の了解”を身に付ける必要があるのである。
次のページ
「スキーマ」を体得するために
1
2
3