本書は日本語の母語話者が、語彙力を支える英語のスキーマをどのように作っていくかということを軸に、実践的な英語学習法を伝えている。この場合の語彙力、というのはたとえば英単語を3000、5000語覚える、といったこととは趣を異にする。
「多くの単語を覚えることは当然大事ですし、スキーマを得るためには広さも深さも必要なのですが、今まで、『語彙』というと広さの話になってしまい、氷山の下に何もない、氷の薄い板を陸地のように延ばしていく、そういうことになってしまっているのではないでしょうか。私が考える語彙力とは、大学受験やTOEFLの試験に必要なものとしての語彙力とはかなり違うものです。語彙力とは、『ある言語を運用するためのスキーマの総体』というようにとらえてもらえれば」
たとえば、語彙を増やすために pursue と chase を覚えただけでは、それらの単語を実際に使えるようにはならない。pursue は、career や goal が「共起目的語」となりやすく、chase は、cat やball が目的語になりやすいということを併せて理解する必要があるのだ。さらに、英語を使いこなすためには、ある単語が、どのくらいフォーマルな印象を与えるかといったことも“氷山の下”の知識として必要になってくる。
また、文法と単語を切り離して覚えるのではなく、動詞と構文は一緒に覚えたほうがいいという。
「子どもは英語母語でも日本語母語でもそうして覚えているわけです。動詞であれば、単語と構文を一緒に覚える。名詞でも、英語母語の赤ちゃんは、意味より先に、可算か不可算かという文法の形をまず覚える。そこから意味を自分で考えて覚えるので、可算か不可算かということと意味の切り離しようがない。構文情報というのは、語彙の中に入っているんですね」
この本では、
SkeLL、
COCAといった、コーパス(日常会話、テレビ・映画、新聞記事、小説などさまざまなジャンルの言語資料のデータベース)を利用したスキーマの習得から、昨年から実施されている大学入学共通テストにも導入された、英語の「聞く・読む・話す・書く」という4技能の習得にまで話は及ぶ。