オルトライトに乗っ取られたキャラクターの悲劇。「ネタ化」の怖さを描くドキュメンタリー『フィールズグッドマン』

表象の可能性

 トランプが当選した後のマットは、カエルのペペが陥った運命に達観するようになった。彼は、歴史はスパイラル状に進んでいくと信じている。現時点で差別主義者が力を持っていたとしても、いつか揺り戻しが来る。そのとき、カエルのペペは本来の温かみを取り戻すのだ。  転機は意外なところから現れた。2019年から2020年にかけて行われた香港の民主化デモで、カエルのペペが登場したのだ。その悲しみが似合う表情は、強大な権力に立ち向かう香港市民の象徴となり、デモ隊に広まっていった。差別主義者が用いる憎悪のペペの表象に対して、自由と民主主義のペペが現れた。  3月13日の渋谷ユーロスペースで行われた上映後のトークイベントで、この映画の撮影が始まった当初は、まったく別のエンディングが考えられていたことが監督のアーサー・ジョーンズによって語られた。マットが揺り戻しに言及したのちに、こうした香港のペペが現れたことは、製作陣にとってもサプライズだったという。2020年の大統領選挙ではトランプが落選し、「明らかな変化の兆しはある」とプロデューサーのジョルジオ・アンジェリーニが述べた。  ネットのミームは悪意に満ちたネット民たちによって「ネタ」として拡散され、差別や憎悪を運んでいくかもしれない。しかしそうした「ネタ」に対する抵抗のチャンスも、ネットのミームは持っている。それこそが、表現が内在的にもつ可能性なのだ。 <文/藤崎剛人>
ふじさきまさと●非常勤講師&ブロガー。ドイツ思想史/公法学。ブログ:過ぎ去ろうとしない過去 note:hokusyu Twitter ID:@hokusyu82
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