黎明期の戦極MCBATTLEは、なぜ「地元と友達」を捨てたのか? MC正社員が描いた鬼の成長戦略<ダメリーマン成り上がり道 #39>
戦極MCBATTLE主宰・MC正社員が、MCバトルのシーンやヒップホップをビジネスやカルチャー面から語る本連載。今回からの4回は、MC正社員の古くからの盟友である元ラッパーのアスベスト氏との対談を掲載。第一回は、戦極MCBATTLEの前身イベントの戦慄MCBATTLEの時代に、MC正社員が断行した鬼の成長戦略を振り返る。
――「戦極MCBATTLE」の前身の「戦慄MCBATTLE」については、正社員さんは途中から運営に加わった形なんですよね? そして、正社員さんに声をかけたのがアスベストさんだったと。
MC正社員(以下、正社員):「覚えてる? もう12年前くらい前だけど」
アスベスト:「覚えてるよ。僕は戦慄MCBATTLEのオーガナイザーのDJ会長に協力する形で、もともと運営の手伝いをしていました。運営を手伝っていたころは、僕の能力ではこれ以上はお客さんを増やせないと思ってたし、自分のラッパーとしての活動にも力を入れたかったので、正社員くんに声をかけたんです。当時の正社員くんはラッパーとして活動しつつ、ほかのイベントの手伝いもしていて、その様子を見て『この人は頭がいいな』って思っていました」
正社員:「俺が最初に『戦慄MCBATTLE』を知ったのはmixiなんだよね。『埼玉でライブしたい人いませんか』とコミュニティで募集があって、そこに応募していたのがアスベストとかゆうま(ラッパー)だった」
アスベスト:「当時はmixiがライブ場所を探すツールだったんですよ。サイファーする場所を見つけるのもmixiだったし」
正社員:「あと魔法のiらんどとかね。戦慄MCBATTLEのホームページも魔法のiらんどホームページだったし。アスベストはゆうまが今どんな活動をしてるか知ってる?」
アスベスト:「知ってる。何か凄い下ネタキャラみたいになったんでしょ?」(注:現在は「Love & Penis」と性教育をスローガンに掲げて活動。「包茎ラッパー」「イロモノ」「夢精」などの楽曲がYou Tubeでも人気に)
正社員:「知ってるんだ(笑)。アスベストがいたときあたりまでは、ゆうまは凄い真面目なラッパーだった。今の転身見てどう思った?」
アスベスト:「今のゆうまくんのほうが断然いいよね。当時、僕とゆうまくんは同じ大学に通っていて、ゆうまくんは『全国の大学生を代表するラッパー』として活動してたんだよね。そういう『いいコ』な肩書より、今の売り出し方のほうが絶対みんな聴きたいって思うなと」
正社員:「ゆうまはそれでバトルスターになったからね」
アスベスト:「見事な転身というか、ブランディングの成功だと思うよ」
正社員:「そもそも戦慄MCBATTLEが始まったのも、DJ会長が大学生のゆうまに『若いコのあいだで何が流行ってんの?』って聞いて、『MCバトル』と答えたのが始まりみたいだからね。それが2007年か8年くらいかな。今日の対談は大宮でやってるけど、俺がラッパーとして出た『戦慄MCBATTLE』は大宮の『PELLE』が会場だった。50人くらい入ればパンパンな会場だったよね」
アスベスト:「あったね。DJブースの目の前でバトルする感じで」
正社員:「そうそう。ライブ中、『こんな小さな会場で俺はラップしてんだ!』みたいにラップするMCがいて、店員さんがムッとしたという(笑)」
アスベスト:「ラッパーは会場へのリスペクトがなさすぎだよ(笑)。そんな小さな規模で開催していた戦慄が、運営の主導権を正社員くんに渡してから急成長したんです」
――具体的に何がどう変わったんですか?
アスベスト:「今でも強烈に覚えているのは、もともとの戦慄でライブをしていたレギュラーメンバー全員を、あとから運営に入った正社員くんがまとめて切ったことですね」
正社員:「言われて思い出したけど、ヤバいね(笑)。俺、頭おかしいわ」
アスベスト:「要するに正社員くんがしたことは、『出演者には観客が見たい人を呼ぶ』ということ。お客さんのことを考えてショーを作るって、ビジネスとして基本中の基本のことじゃないですか。でも、当時のヒップホップのイベントの世界には、そういう常識的な発想ができる人間がほとんどいなかった。だから僕も衝撃だったんですよ」
正社員:「そもそもヒップホップの人気もMCバトルの人気も全然なかった時代だからね。あと、当時の戦慄のレギュラーはDJ会長の友達で集まった人が大多数をしめていた」
アスベスト:「良くも悪くも仲間だから出すというか、キャスティングに意図はなかったかね」
正社員:「シーンどころか身内にも影響力を与えることが難しいレギュラー陣が多かったんだろうね」
――ライブの出演者は「運営の友達だから出ている人たち」みたいな感じだったんですね。
アスベスト:「そうです。その状況に正社員くんが手を入れた。ただ、当時の僕はその提案を受けたとき、『冗談じゃないよ!』って思いましたよ。でも正社員くんが『そこをいじらせてくれないなら、俺がこの仕事を受ける意味はない』と言い張って」
正社員:「あとから運営を手伝いに入ったのに、とんでもないやつだね(笑)」
――プロ意識を持ってイベントを仕切る人が外からやってきたわけですね。
アスベスト:「でも、仕事の裁量を取りにくる姿勢は、すごいなと思いましたね。それで『じゃあ一回任せるんでやってみてください』と頼んだら、前回比では大成功といえるほどイベントは盛り上がって。そこから『正社員くんは信頼できるし、この人のやり方についていけば間違いない』と感じるようになりました」
mixiや魔法のiらんどでライブ場所を探した時代
レギュラー出演者をクビにしてイベントは急成長
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