チェ・ユンテ監督は、本作のメッセージについて「主人公のスインがそうであるように、私たちもそれぞれ自分だけの長所を持っている。たとえ世界が認めてくれなくても、自分の長所を信じて前に進むことは間違いではないことを、映画を通して伝えたい」と語っている。
誰しもが、自分だけの長所を持っている。しかし、社会に通底している固定観念、もしくは制限された性の役割によって、その長所が見えにくくなってしまうことも、現実では多くあるだろう。そのような状況に、『野球少女』の物語は「今一度、自分の長所を確かめてみよう」と思わせてくれる。それこそに、最大の意義がある映画でもあったのだ。
しかも、本作は長所を生かせば全てが上手くいく、といった甘い結論では終わらせてはいない。どこかに性差別があり、社会の固定観念を変えることは並大抵のことではない、という厳しさをも提示することで、劇中の主人公に送られてきたエールが、現実社会で生きる全ての人へエールにもなっていくことも、本当に素晴らしい。
『野球少女』と通ずるところも多い韓国映画
『夏時間』が、現在小規模で公開されている。
『夏時間』で描かれるのは、父親の事業が失敗したために祖父の家に引っ越してきた、10代の少女と弟のひと夏の経験。それを通じて、家族のありかたを問うている。大きな事件がほとんど起こらないのだが、それぞれの心理が丁寧に描かれ、何気ないセリフにハッと息を飲む、奥行きのある内容になっていた。2020年に日本公開された、同じく思春期の少女の感性を豊かに綴った韓国映画『はちどり』が好きな方もきっと気にいるだろう。
『パラサイト 半地下の家族』(2019)もそうなのだが、韓国映画ではよく貧困の問題も描かれる。その普遍的な問題に抵抗し、道を切り開くか、より良い状況を目指す家族の物語は、日本人であっても感情移入がしやすいだろう。『野球少女』と合わせて、こちらも機会があれば観ていただきたい。
<文/ヒナタカ>