――テレビでは芸能人が大麻で逮捕されると大きな問題として報じられます。なかには、土下座をして謝罪をするような姿が映されることもありますが、どこか違和感を感じます。
長吉:(大麻所持の容疑で逮捕された)KAT-TUN元メンバーの田口淳之介さんも土下座する必要はなかったと思います。同容疑で逮捕された元俳優の小嶺麗奈さんの弁護士を務めた望月宣武さんは、逮捕前の動きが報道機関に流されることは、
守秘義務違反(国家公務員法違反)だとしています。個人情報じゃないですか。
なぜ逮捕の瞬間にカメラがいるのでしょうか。
――LINEに書いただけで逮捕されるのは、表現の自由にも繋がる問題です。本書で取材をしていたYouTuberのカオルさんは、ウェブメディアやYouTubeで大麻の情報発信をしただけで逮捕されたそうでした。
長吉:表現しただけで、逮捕されてしまう。捜査の手法が非常に強権的です。これは大麻だけの話ではないのです。大麻についてどう考えるかは、社会のリトマス紙だと思っています。本書では佐久間裕美子さんと話していますが、今、香港やタイなど世界中でファシズム的な傾向が強くなってきています。全体主義的で強権的な政治と民衆がぶつかり合っている。だから僕らがひとつ一つを監視していく。声を上げていかないとまずいと思っています。
――大麻取締法は大麻の所持や栽培の罰則がありますが、使用することには罰則がありません。しかし今、使用罪の導入が議論されています。1月に厚生労働省の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が始まりました。
長吉:厚労省は若年層の検挙者数が上がっており、それを抑止するためだとしています。また、世界保健機関(WHO)や国連麻薬委員会が医療用として価値があると認めているため、医療用大麻の活用に向けた議論を進めるとのことです。
しかし、使用罪を導入すると検挙者数は上がるわけです。しかも先ほどの話のように厳しい懲役刑しかない。
若年層に抑止をさせたいならば、人生がめちゃめちゃにならないように、ちゃんと教育プログラムを作るべきです。恐怖で縛りつける方向でよくなるはずがないじゃないですか。日経新聞の記事では、警察幹部のコメントで「使用罪の導入が実現すれば、効率的な取り締まりにつなげられる」などと言っている。いや、そういう話じゃないでしょうと思います。
覚醒剤やヘロインは身体に害が大きいでしょう。しかし、大麻は健康被害ではなく、逮捕されることが一番の害なのです。害を取り除くのがハーム・リダクション(※)であるならば、まずは量刑のバランスを取るべきだと思います。
(※:薬物による健康的被害や社会的被害を軽減すること。すぐにゼロにするのではなく、現実的な段階を踏みながら減らしていく)
また、使用罪を導入することになるならば、法律の性質が変わります。これまでは植物としての大麻草の所持や栽培を取り締まっていました。使用罪になると、大麻の成分THC(テトラ・ ヒドロ・カンナビノール)の規制になるわけです。それならば、どれくらいの濃度でアウトなのかを決めるべきです。
たとえば、オリンピックの競技時にTHCは禁止されていますが、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は尿中1ミリリットル中に150ナノグラムを基準値にしています。そういうルールが海外でもあるわけですから、少なくとも欧米並みの基準値に設定するべきだと思います。