―― 藤田さんは本書で、戦後のドイツは基本法(憲法)に掲げられた「人間の尊厳」によって国をまとめてきたと記しています。しかし、「人間の尊厳」は普遍的な概念で、ドイツ人にもフランス人にも当てはまります。ドイツをまとめるには、ドイツ人にしか当てはまらない要素が必要です。「人間の尊厳」で国をまとめるのは難しいのではないですか。
藤田 戦後のドイツは、「人間の尊厳」を見失った社会がナチスのホロコーストを招いたという反省から、社会を再構築する大前提に「人間の尊厳」を据えました。普遍的な概念が歴史的背景からその国の理念として重んじられることは、日本の戦後憲法にも見られます。私は今回の取材で、「人間の尊厳」を重んじる国として今もまとまろうとするドイツを確認できました。
―― 日本がナショナリズムを陶冶するにはどうすればよいですか。
藤田 ナショナリズムを正面から問い直すことが重要です。私たちは好むと好まざるとにかかわらず、国民国家の中で生きています。そうである以上、ナショナリズムから逃れることはできません。日本は民主主義国家なのですから、ナショナリズムをタブー視せず、徹底的に議論することが大切だと思います。
特に新型コロナウイルスに直面している今、それを乗り切るために「私たちはどういう社会を目指すべきか」が問われています。これは日本という国を見つめ直す機会になるはずです。私の本が、読者の皆さんがナショナリズムを避けることも崇めることもなく、我が事として考えるきっかけになれば幸いです。
(1月21日、聞き手・構成 中村友哉)
藤田直央(ふじた・なおたか)●1972年京都府生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞社入社後、千葉支局、山形支局、政治部、米ハーバード大学国際問題研究所、那覇総局、外交・防衛担当キャップなどを経て、2019年から編集委員。著書に『
エスカレーション 北朝鮮 VS. 安保理 四半世紀の攻防』(岩波書店)、新著として『
ナショナリズムを陶冶する ドイツから日本への問い』(朝日選書)。
<記事提供/
月刊日本2020年3月号>
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