かつてと異なり、現在の公務員が接待三昧の生活を送っていることはありません。国家公務員倫理法などのルール整備に加え、報道や住民訴訟などによって実態が明るみに出て、接待を当たり前とする行政の組織文化が変わったからです。地方自治体の幹部職員には、自治会などの懇親会の伴う地域の会合に職務として頻繁に呼ばれる一方、そのたびに5千円などの懇親会費を自腹で払って、100万円単位の多額の支出をしている人がいるくらいです。
働き方改革ということもあって、企業や利害関係者との意見交換は、平日の昼間に役所の会議室で多数の参加者と共に行うようになっています。飲食を伴わなければ接待を受けようがありませんし、役所の会議室で行えばお土産をもらうこともありません。双方に複数の部下がいて、記録を取っていれば、法令に触れる話もしにくくなります。
それにもかかわらず、総務省幹部が首相の長男から接待を繰り返し受けたのは、懲戒処分よりも怖いことがあったからです。公務員において懲戒処分よりも怖いことは、あり得ないのですが、そうとしか考えられません。
それは、菅首相の厳しい官僚統制です。菅首相が自らに意見したり、意に沿わなかったりする官僚を厳しく扱うことは、総務省の常識です。総務省の自治税務局長が、菅首相の官房長官時代、菅首相発案の
「ふるさと納税」の課題を述べて閑職に飛ばされたのは、典型的な事例です。職務に忠実であっても、意に沿わないだけで飛ばされるならば、逆に菅首相に忠実ならば、多少の懲戒処分を受けても何とかなると思うのは当然です。
一方、有力政治家に近い関係者に対して、政府が優遇することはこれまでも行われてきました。森友学園問題では、安倍首相の妻が名誉校長を務める私立学校に対して国有地を特別に格安で払下げました。加計学園問題では、安倍首相の腹心の友が経営する学校法人に対して特別に規制緩和しました。桜を見る会問題では、安倍首相の支持者が政府主催の親睦会で特別な飲食の提供を受けました。
菅首相は、厳しい官僚統制によって、有力政治家に近い関係者が、政府から特別な優遇を受ける社会に変化することを加速したのです。それは、安倍首相の時代よりも、さらに強まっていくでしょう。許認可権限や予算執行を担う官僚を意のままにできるからです。
この菅首相がチャレンジする社会変革は「DX=ドラ息子トランスフォーメーション」です。「ドラ息子」である長男は、有力政治家に近い関係者という人々を象徴する存在です。能力がなくても、経験がなくても、努力しなくても、有力政治家とのコネさえあれば、幸せな生活が送れる社会に変革しつつあります。