反対する論理に目を向けることを妨げる「反発」という表現

辻元清美『国対委員長』の「はじめに」より

 最後に、辻元清美『国対委員長』(集英社新書、2020年)の「はじめに」から、この一節を引用しておきたい(太字は筆者)。 “脅迫を受けるたびに、心が痛み怒りが湧いてきます。しかしある意味、私にとって脅迫より辛い一言があります。 「野党がだらしないからなあ」と言われることです。  そして「自分たちが声をあげても、どうせ変わらないでしょ」と無気力になって政治に絶望し、諦めてしまう人たちの姿を見ることが一番苦しいのです。そのたびに、今の政治に対するシニカルな風潮をつくっている責任が私にもある、とこの言葉を噛みしめています。  テレビのワイドショーやネットニュースなどでは、センセーショナルな場面だけが繰り返し報道され、「また野党は審議拒否をしている」「大事なことがあるのにケンカしている場合か」などと、どっちもどっちのうんざり感が増幅される傾向があります。大半の人たちは、切り取られたワンシーンだけを報道で知るというのが現状です。インターネットのフェイクニュースで、真実が捻じ曲げられて伝えられることすらあります。  なぜ、野党は審議拒否をするのか?  そこには相応の理由が、それも政治の局面を変えていくための大きく深い理由があるのです。“  私が、かつて自分でも用いていた「反発」という表現を用いることをやめ、「野党は反発」という言葉に違和感を抱くようになったのは、ここで辻元清美議員が語っている内容がよくわかるようになったからだ。一人一人の野党議員の質疑により目を向けるようになり、それらの議員が、何を背負って国会に臨んでいるか、何を訴えているかが見えるようになり、個々の議員の姿が、くっきりと人間として立ち上がってきたからだ。  「野党は反発」と記者が書くとき、その記者にとって、その野党議員たちが安倍政権のもとでどのような状況におかれてきたか、見えているだろうか。ぜひ、見ようとしていただきたい。 <文/上西充子>
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。また、『日本を壊した安倍政権』に共著者として参加、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆している(ともに扶桑社)。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。本サイト連載をまとめた新書『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)も好評発売中
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政治と報道 報道不信の根源

統治のための報道ではない、市民のための報道に向けて 、政治報道への違和感を検証