「政府のコロナ感染拡大防止戦略に寄与するために、システムを開発する」との一大プロジェクトを、高層ビルの建設に例えれば、楠氏が指摘する問題点は、「現場の作業員さんが、想定外の問題に直面し、その対応が困難を極め、結果として作業員さんご本人の死亡事故や、あるいは工期の大幅な遅れに直結するような重大インシデントが発生してしまった」ようなものだ。インシデントは重大ではあるし大いなる反省は必要だが、あくまでもそれは現場レベル・戦術レベルの問題点でしかない。
だが本当の問題は、そうした
「想定外の問題」や「技術的に対応困難な問題」を現場にのみ押し付ける設計側・監督側にもあるのではないか。いや、さらに言えば、高層ビルの建設に例えれば、「そこに高層ビルを建てよう」とする構想そのものがすでに無理のある構想だった可能性はないのか、その検証こそが必要なのではないか、と、我々取材班は問いたいのだ。
COCOA、HER-SYSだけじゃない厚労省のお粗末な絵図
前回触れたように、COCOAの上流システムである
HER-SYSさえも機能不全に陥っており、想定通り稼働している様子はない。そしてHER-SYSが稼働していない原因は、コーディングのミスやバグの発生といった技術面にあるのではなさそうだ。これまでの取材で判明した範囲では、病院・クリニックなどの検査を実施する民間医療施設のみならず、保健所などの行政の検査機関でさえも、「現場の運用に馴染まない」「使い物にならない」「使わない方が仕事が早く済む」との理由でHER-SYSを利用していない。そして、前回も触れたように、現場での利用が進まないために、厚労省本省でさえもHER-SYSの利用を諦め、「各都道府県のホームページを目視確認する」形式で、全国のコロナウイルス感染者数を把握するという誠に滑稽なオペレーションを採用するに至っている。先程の高層ビルの例えに戻れば、「高層ビルをなんとか建設したが、テナントが入らないから、大家である自分もそのビルに入居することを諦める」とでも言うべき滑稽さだ。
さらに問題なのは、厚労省のこうしたミスがCOCOA・HER-SYSに限った話ではないという点だろう。
昨年5月には、雇用調整助成金申請システムで、企業側の申請担当者の個人情報が流出するというシステムトラブルが発生している。しかもその内容たるや、複数の企業に同じIDが発行されてしまい、先に情報を入力した会社の担当者の名前や電話番号などの情報が、後に入力する全くの別企業の担当者が閲覧できるようになっていたという「お粗末さ」なもの。さらに6月には全く同様の個人情報漏洩システムトラブルを再度発生させ、その後数ヶ月にもわたるシステムダウンを余儀なくされている。コロナ禍で雇用を維持するための最後の命綱ともいうべき雇用調整助成金の申請システムが、この有様なのだから目も当てられない。もうこうなれば、「厚労省の発注するシステムは、どんなものであれ、お粗末な結果になる」としか言いようがないだろう。