また、アイコンタクトの外し方に緩急をつけると、フレーズとフレーズの区切りの
間(ま)の取り方に、抑揚をつけることができるようになる。
8年前、渡米する直前に
野村克也さんとキャッチボールしたときのことを振り返り、どんな想いがあるかを問われて、田中投手は特に多くの間(ま)を挿入して次のように語っている。
「うーん(
長めの間)、まあ、あのとき(
間)、最後に(
間)、日本での最後の一球というものを(
間)、受けていただいて(
間)、まあ(
間)、野村監督のもとで僕のプロのキャリアというものがスタートしたので(
長めの間)、すごくこう自分のなかでも感慨深いものがありました(間)」
小刻みに間(ま)を挟み込むことによって、聞き手からすると
話が理解しやすくなる。また、田中投手が一言一言を生み出している心情が伝わってくる。間(ま)という話をしていない、
沈黙している部分で聞き手を引き込んでいるのだ。
間の長さに変化をつけることによる効果も大きい。特に長めの間(ま)については、「
次は何を話すのだろう」という、
聞き手の期待度を高めることができる。
「野村監督のもとで僕のプロのキャリアというものがスタートしたので」のあとの長めの間(ま)に、田中投手がいったいどのような想いを抱いているかという、
次のフレーズへの聞き手の期待度が最高潮に達しただろう。
話の構成に呼応した間(ま)の作り方になっているのだ。
いっぽう、
フレーズの最後の間(ま)は、聞き手にそれまでの話をあらためて反芻させて、理解を促すことに役立っている。
このフレーズは長い。しかし、文字にすれば読点を8つ挟み込み、間(ま)を7回組み込むことによって、長さを感じさせない。
また、田中投手の話には、時折「
えー」という擬音が入り込む。一般にこうした
擬音は話の聞きやすさを阻害するノイズになる。しかし、田中投手は
間(ま)を多用することで、ノイズを目立たなくしていると言える。
野村さんからの教えで今でも心に残っていることを問われて、田中投手は「とにかく投手は原点能力が大事だというふうに教えられていたので、そこは一番、今までもそうですし、これからも打者の外角低めに投げていくという練習を一番していくと思う」と答えている。
話をする際の言葉ひとつ、動作ひとつとってみても、田中投手は原点能力を発揮しているように思える。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第227回】
<取材・文/山口博>