テレワークで仕事が増加しているだけでなく、
家事や育児の負担が増加していることも無関係ではない。裏を返せば、
日頃からそういった負担を女性が一手に担っているわけだが、その是非はさておき、
「やることが増えている」ことは紛れもない事実だ。
エンジニアのKさん(男性・34歳)が語る。
「自分はベタな『
テレワーク民』ですね。早い段階からテレワークが導入されたので、もうすぐ一年経ちます。その間、出社したのは3〜4回ほど。顔合わせたことすらない同僚やお客さんと、仕事や会議しています。
家にいると家事や育児を手伝うので効率は下がりますが、通勤はないし、昼寝やご飯も自分のペースで要請できるので、
楽ですよね。
プライベートと仕事の境界がなくなりましたが、慣れたら何とも思わなくなりました」
日本人の通勤時間の長さは予てから指摘されており、心身に悪影響を与えていることがわかっている。コロナショックによる業務形態の変化は、そういった「ムダ」を省いている面もあるのかもしれない。しかし、Kさんが語ったように、
公私の境界が曖昧になったことで、弊害も表れている。
「自分は上司にも噛みつきまくるスタイルで働いているので、割とストレスなくやっていますが、
業務量が多いので深夜まで仕事をしています。
朝は幼稚園の送りだしで早く起きるので、寝不足ではありますね……」
男は働きに出て、女は家の面倒を見る……。そんな
悪しきステレオタイプがコロナを機にようやく終焉を迎えようとするいっぽう、その
変化に直面する世代は心身ともに疲労しているようだ。
また、周囲で多発する負の連鎖に巻き込まれ、自らも心身の調子を崩してしまったのはIさん(男性・33歳)。
メディア・広告関連の仕事をしているIさんは、ただでさえ多忙な日々にコロナが直撃し、
出社することもままならなくなったという。
「
後輩が病んでしまい、その穴埋めを別な後輩がすることに。今度はその後輩もメンタルを患ってしまい、担当していた業務を自分が引き継ぐことになったのですが、
想像以上に過酷でした。上司は『
あいつ鬱で休んだくせに、LINEは返してくんだよな。サボってねえで働けよ』と、
気遣うどころかより言い出しにくい空気を作る始末。そんな状況じゃ
『しんどい』なんて愚痴も言えませんよね。以前だったら、同僚と飲みにでも行ってストレス発散していましたが、それも今は難しいですし」
苦しいけど、自分だけが忙しいわけじゃない……。そう言い聞かせていたIさんだが、自分でも気づかぬ間にストレスは心を蝕んでいた。
「夜は
仕事が気になって寝れず、朝は
テレワークなのであとで頑張ればいいやと起きれず……。生活リズムもめちゃくちゃになってしまい、実家にいる親からも『
顔色が悪いけど大丈夫?』と心配されました。でも、自分からは言い出せず、むしろ『
疲れてるから話したくない』と拒絶してしまい、それもストレスに。
本当に辛かったです」
女性や
子ども、そして
働き盛りの30代も苦しんでいるメンタルヘルス。もちろん、問題を抱えているのは彼らだけではない。
中高年や
若者の間でも苦しんでいる人は増え続けている。
コロナショックだけではなく、広がり続ける「
メンタルヘルス・パンデミック」に対しても、より一層目を向けていく必要があるだろう。
<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン