<言語や歴史学>
ポップ・カルチャーからの引用をまぶして、わかりやすく卑語の歴史を紐解く同シリーズだが、その根底では
しっかりとした学術的な検証がなされている。
たとえば、「
SHIT」は日本語でも「
クソ」という似たニュアンスの卑語があるが、もちろん
本来の意味は排泄物である。
筆者が特に興味深く感じたのは、遥か昔はトイレが個室になっていなかったため、
家族や赤の他人と同じ空間で用を足していた、「
糞をしていた」という歴史だ。
排泄物であるため、元来否定的な意味合いも含んでいた「
クソ」だが、
今ほど忌み嫌われる存在ではなかったというわけだ。
また、同シリーズには「
BITCH」「
DICK」「
PUSSY」といった
ジェンダーに関連した卑語も登場する。女性の研究家やコメディエンヌたちが「
アリなBITCH」と「
ナシなBITCH」の違いなどについて議論する様子は抱腹絶倒モノ。
しかし、それは
いまだに蔓延るミソジニーの裏返しでもあり、
笑いと差別の複雑な関係についても、同シリーズはメスを入れていく。
<心身への影響>
相手と打ち解けるツールにもなれば、酷く傷つけることもできる……。さまざまな力を持ち、
諸刃の剣にもなり得る卑語だが、実は
物理的に心身にも影響を及ぼすことをご存知だろうか?
そう、人間は「
クソ〜!」「
チクショー!」と
罵ることでストレスが軽減されたり、
通常以上の力を発揮することができるのだ。
同シリーズでは、
科学的な検証実験も行われ、
卑語の秘められたパワーが紹介される。仕事に忙殺され、本来のパフォーマンスが発揮できていないという方も、必見である。
<ニコラス・ケイジ>
こうした
多様な要素を統べ、明るいものから攻撃的なものまで
あらゆる卑語のニュアンスを表現し、
バカバカしさと大真面目の間に立てる人物はなかなかいないだろう。そんな絶妙な立場を難なくこなし、司会進行を務める
ニコラス・ケイジの存在は同シリーズに欠かせないものだ。
「
ニコラス・ケイジが卑語の歴史を紹介」という、
あまりにインパクトのある番組内容だけで興味を持った人は世界中にいるはずだ。筆者もその一人である。
ケイジはそんなファンの期待を裏切らないどころか、
新たな引き出しを見せてくれる。
名作映画からの引用や
さまざまな訛りの再現、
卑語の発声やニュアンスを切り替える
絶妙なデリバリー……。
歴史や
ジェンダー、
政治や
カルチャーといった要素が渦巻く
卑語の世界で、ニコラス・ケイジは太陽として輝いているのだ。
このケイジを観るためだけでも、同シリーズは十分鑑賞に値するだろう。
長々と紹介してきたが、前述のように
各エピソードは非常にコンパクトな作りになっているので、まずはとにかくチェックしてほしい。卑語の歴史はあなたが思う以上に、「
クソ面白い」こと間違いなしだ。
<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン