始まった「ワクチン格差」。“上級国民”による順番無視の優先接種に社会的批判が高まる。スペインで

役人本人だけでなくその妻にも優先接種

 バレンシア州と隣接したムルシア州政府の保健長官マヌエル・ビリェガスの例は、メディアから一番注目を集めた。  彼は最終的には周囲からの圧力で辞任を余儀なくさせられたのであるが、彼の弁明によると「第一線の医療従事者へのワクチン接種が終了したので、その次は第二線にある医療関係者が受けることになっており、その中に私も入っているからだ」と回答した。  確かに彼は心臓専門医ではあるが、保健長官になってからは医療勤務から遠ざかっており、しかも彼の夫人も接種を受けていたということも判明して周囲から辞任するように圧力が強まったのであった。〈参照:「El Salto diario」〉  アフリカ大陸の北部先端にあるスペインの自治都市セウタでも保健長官ハビエル・ゲレロが接種を受けていたことを認めた。彼は、「私は接種したくなかったが、私の配下の医療専門家たちが私が接種しなければ彼らも接種しないということだった。しかも、私は糖尿病と血圧が高いということもあった」と述べて優先順位を無視して先に接種したことへの釈明をしたのである。勿論、彼は辞任する意向はないと表明している。〈参照:「Antena3」〉   マドリード州のクリニカ・サンカルロス病院ではワクチンが余るということで週末を利用してワッツアップを通して医師連盟に属していた退職者もワクチン接種を受けることができると知らせた。その招集をかけた人たちは少数だと担当者は説明しているが、この連盟に属していないしかも前線に出ていない医療関係者までワクチン接種を受けることが出来たという事態も発生した。そのせいもあるのかマドリードではどの自治州よりも先にワクチンが不足するようになった。

「ワクチンが余ってはもったいない」

 アンダルシア州ではワクチンが余ったのを利用させてもらったと弁明しているのが市長のひとりフランシスカ・アラミリョだ。彼女は「接種を受けたいと表明したことは一度もない。老人ホームの入居者と介護士全員に接種を済ませたあとに2本余ったので利用しない場合は捨てることになるということで利用させてもらった」と語った。もう一人の市長ホセ。ルイス。カブレラは「余ったので医療従事者から私に老人ホームの入居者を前に(ワクチンは)信頼してよいという模範を示すように言われたからだ」と述べて余ったワクチンを接種したことの説明にした。  老人ホームに良く出入りしているので先に接種させてもらったというのを理由にしたホセ・フェルナンデス市長もいる。  ワクチンが余るということについて説明しておこう。  ファイザーのワクチンは零下70度の低温管理から開封して使用する段階になってから5-6時間内に接種を完了しておかねばならないという条件がある。しかも用意している注射の針との関係からワクチンが余る場合がある。それを利用せずに捨てるのはもったいないとして予定外で接種を受けるのが特権を利用できる政治家や敢えてその家族までそれを利用した、というのである。  ちなみに、アラゴン州やバレンシア州の場合はそのような場合を考慮してBプランというのが用意されていた。余った場合は高齢者でまだ接種を受けていない人を対象にするということになっているそうだ。
次のページ
特権のない筆者はいつ接種できるやら……
1
2
3