マスク越しでも悲しみと怒りは伝わる、おそらく、笑顔や驚き、嫌悪も
様々な民族背景を持つ7歳~13歳の81名の子どもに、顔全体が見える表情写真、マスクで顔の下半分が覆われている表情写真、サングラスで目が隠れている表情写真を観てもらい、どんな表情をしているか類推してもらいます。対象となった表情は、悲しみ・怒り・恐怖表情です。
実験の結果、顔全体が見える表情写真に比べると正確さはやや落ちますが、子どもは、マスクで顔の下半分が覆われていても、サングラスで目が隠れていても、表情写真をおおむね正しく類推できることがわかりました。
具体的には、子どもは、マスクを着けた恐怖表情を驚き表情と間違える傾向にありましたが、マスクを着けた悲しみと怒り表情は、正しく認識することが出来ました。また、悲しみと怒り表情の認識には目周辺の特徴が重要であることがわかりました。
悲しみは共感感情に関連する感情です。マスクの上からでも悲しみ表情が伝わるということは、子どもの悲しみに寄り添ったり、悲しんでいる他者に対し、子どもと共に寄り添ってあげることが出来るでしょう。怒りは不正義に関連する感情です。マスクの上からでも怒り表情が伝わるということは、子どもに何が正しく何が間違っているかを伝えることが出来るでしょう。
なお、本研究は、悲しみ・怒り・恐怖表情しか対象としていませんので、その他の感情表現についてはマスク越しに子どもにどう伝わるかわかりません。しかし、目周辺のみの情報には、真の幸福表情(目が笑っていない口角だけを引き上げた愛想笑いではなく)、驚き表情、嫌悪表情の特徴が表れますので、他の表情もマスク越しから伝わっている可能性は十分考えられます。
マスクやリモート越しでのコミュニケーションでも、子どもは、私たち大人の想像を超えて、限られた情報からでも最大に情報を引き出し、コミュニケーションを積極的に図ろうとしているのかも知れません。大人に比べ、言語に頼る比重が少ないからでしょうか。あるいは、未知の世界に対する強い好奇心がなせるわざでしょうか。
以上、本研究から、マスクの上からでも表情を通じた感情表現が伝わるということがわかりました。したがいまして、自信を持って表情豊かに、マスクでやや損なわれる感情表現は、表情以外の身体動作や声色を駆使して、子どもたちに接して頂ければと思います。子どもたちの鏡があなたの表情であり、あなたの鏡が子どもたちの表情なのですから。
【参考文献】
マリアン・ラフランス(著)中村真(訳)『微笑みのたくらみ 笑顔の裏に隠された「信頼」「嘘」「政治」「ビジネス」「性」を読む』化学同人 (2013) p.50
Ruba AL, Pollak SD (2020) Children’s emotion inferences from masked faces: Implications for social interactions during COVID-19. PLoS ONE 15(12): e0243708. doi:10.1371/journal.pone.0243708
<文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。