国防・国力としての「地図」。行政が主導する地理とエンジニアを結びつける取り組み

経済産業省の政府衛星データ Tellus(テルース)

 衛星データの産業利用を促進するために、経済産業省とさくらインターネットが推進する、衛星データプラットフォームが Tellus(テルース)だ(ASCII.jp)。  Tellus は、衛星データの産業利用を促進するために、オープンかつフリーなプラットフォームとして提供されている(Tellus)。Tellus では、クラウド上で衛星データの分析をおこなえる。  同プロジェクトのオウンドメディア「宙畑-sorabatake-」では、Tellus の使い方など、様々な記事が掲載されている。  特徴的なのは、光学データだけでなく、SAR衛星によるSARセンサーのデータもあつかえることだ。SAR は、Synthetic Aperture Radar の略である。日本語では合成開口レーダーと呼ばれる。電波の跳ね返りを見る能動型のセンサーで、雲に覆われていたり夜だったりした場合でも、地上の様子を観測できる。  またSARセンサーでは、ざらざらした表面ほど多く電波が返ってきて白く見え、つるつるした表面では電波が反射して黒く見える。そのため、自然物と人工物、海面と船などを見分けるのに向いている。さらに、跳ね返るまでの時間を計る方法のため、高さも検出できる。そのため、地盤の隆起や沈降、石油タンクの蓋の上下移動などを知ることも可能だ(宙畑)。  同サイトでは、衛星データを利用したビジネスが多く紹介されている。資産調査や株価予測、保険や物流、建設や不動産といった産業、投資目的もあれば、農作物の生育予測、魚群探査・養殖監視、森林監視・管理といった、農業、漁業、林業などの目的もある。  こうした事例を見ると、さまざまなアイデアで新しいビジネスを生み出せることが分かる。また、疫病監視や防災・防衛といった、人々を守るための活用方法もある。

総務省の地理空間情報活用人材育成 Geospatial Hackers Program

 総務省が主催の Geospatial Hackers Program というものがある。協力は Code for Japan 、国立研究開発法人防災科学技術研究所、地方公務員オンラインサロン。運営会社は、HackCamp である。  Geospatial Hackers Program は、社会課題の解決や、新規ビジネス創出に役立つ技術を学び、活用できるようになるための人材育成事業だ。すでに数年の実績があり、去年の末に、2021年3月末までの講習の事前説明会がおこなわれた(INTERNET Watch)。  参加対象は、初学者、技術者とある。初学者としては、自治体職員やNPO職員を想定しており、技術者としては、G空間技術(地理空間技術)にほとんど触れたことがないプログラマーを対象としている。問題を抱えている側と、技術を持っている側の双方からアプローチして、社会の問題解決に繋げたいという意図が分かる。  先に紹介した PLATEAU や Tellus が、技術者寄りのアプローチだとすれば、Geospatial Hackers Program は、もう少し自治体寄りのアプローチだと言える。  このように、国土交通省、経済産業省、総務省と、数々の省が、地理関係のデータの活用を模索して、民間への情報提供をおこなっている。こうした実情を見ると、江戸時代から大きく時代は変わったと感じさせられる。新しいイノベーションは、積極的なデータの公開と活用によって、進められていくのだろう。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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