台本を読むだけの“茶番劇”。「緊急事態」でも菅首相の言葉が響かない理由

安倍首相の時よりもますます閉鎖的で中身がスカスカに

ICレコーダーイメージ この間、デジタルメディアでも学者やジャーナリストが菅首相の記者会見を問題にしている。いずれも的確な論評だと思うが、首相会見を主催している日本最大の「記者クラブ」(日本新聞協会のウェブサイト英語版では、海外にある“press club”との混同を避けるため、 “kisha club”と英訳されている)である内閣記者会の問題が忘れられている。  安倍政権の時から日本の首相の記者会見がつまらない原因は、内閣記者会が官邸報道室の完全支配下にあることに尽きる。菅首相自身と内閣報道室、進行役の山田真貴子内閣広報官がダメなのだが、内閣記者会にも連帯責任がある。「記者クラブ」制度が会見を茶番劇にしてしまっているのだ。  形式上、官邸での首相・官房長官の会見は、内閣記者会の主催になっている。しかし記者会には事務局もスタッフもなく、ウェブサイトもないため、実際は官邸報道室が会見の実施時期、参加者の選定、運営などすべてを仕切っている。  菅首相の7日の記者会見は、①2019年9月16日の就任時(30分)②10月21日外遊先のジャカルタでの内外記者会見(20分)③12月4日の国会閉会前日会見(50分)④12月25日のコロナ禍での会見(55分)⑤今年1月4日年頭会見(30分)に次いで、6回目だった。  コロナ禍に絞った会見では2回目。安倍前首相は昨年2月末から6月まで8回、コロナ関連で会見した。菅政権になって記者会見はますます閉鎖的となり、内容もさらにスカスカになっている。

用意されたカンペを読みながら、“台本通り”に会見が進んでいく

マイクで質問イメージ 1月7日の会見を振り返ってみよう。会見の司会・進行役は山田内閣広報官。冒頭、菅首相が首都圏の1都3県に対し緊急事態宣言を決定したことを報告した。筆者はこれをNHKテレビで見たが、会見開始の直後、テロップで「全国できょう7000人超の感染 3日連続で過去最高」との速報が出た。  菅首相は「飲食は20時までの営業」「テレワーク推進」などを進めると述べた。菅首相は特措法改正案の早期提出などを述べた後、「私たちの想像を超えた厳しい状況だ。不要不急の外出をしないなどを徹底してほしい」と要請。最後に「政府はありとあらゆる方策を講じていく。国民のみなさんのご協力をお願して、私からの挨拶とさせていただきたい」と述べた。結局、記者会見は「挨拶」だったのだ。  記者との質疑応答では、山田氏が「指名を受けられた方はスタンドマイクに進み、所属とお名前を明らかにしていただいたうえで、1問ずつ質問をお願いしたい。質問が終わったら、マスクをご着用のうえ、自席にお戻りください。なお、自席からの追加の質問はお控えください」と述べた。山田氏は記者に名前を明らかにするよう求めるものの、自身は会見で所属(肩書)・氏名を名乗ったことがない。  質疑応答では、コロナ対策分科会の尾身会長が菅首相の横に立った。首相会見に専門家を呼ぶのは異例のことだ。山田氏は「慣例に従って、幹事社から。それでは、日経の重田さん」と指名。重田記者は「1か月で収まらなかった場合はどうするのか」と聞いた。  菅首相は質問の時から台本を見ており、「前回も1か月だった」などと回答した。これもすべて台本通り。記者会の参加者は事前に質問事項を首相側に出しているので、問答集のカンペが用意されているのだ。  次に山田氏は「それではもう一つの幹事社、テレ東の篠原さん」と指名。篠原氏は「医療従事者の給与を上げないのか」と聞いた。これに対する菅首相の回答は、冒頭の「挨拶」で言ったことの繰り返しだった。
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どんな質問に対しても、回答文が手放せない菅総理
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