人気予備校講師が教える「真の学力向上のために必要なこと」

学力向上のための対話

――コロナ禍にあって、学校の授業時間が減少していることから学習時間が減り、お子さんの学力低下に対して不安を抱えている親御さんも多くいると聞きます。このような状況にあって家庭でできることはどのようなことなのでしょうか? 高橋:まず、親御さんが自分との対話をした方がいいと思います。コロナ禍はいいチャンスです。何が大切で何が大切ではないのか。「学校に行くこと」がそこまで大切なのかということです。子どもによってはオンラインが合っている子もいる。学校に行って勉強することがすべてと思わない方がいい。今後は学び方の選択肢が増えると思います。塾もオンライン化していくでしょうし、費用も低廉なものが登場しています。  そして、テレビとゲームを消して、低学年だったら図鑑を一緒に見てもいいし、小学校高学年から中高生ぐらいになったら親子で、環境や平和など様々なテーマで話し合ってほしいです。  小論文を教えていますが「そのテーマについて両親と話しました」と発言するような生徒さんはやはり伸びますね。例えば「平和」だったら、小学生なら小学生なりに、中学生なら中学生なりの考え方があり、親子で話せば生きた勉強になると思います。自宅にいる時間が長い今だからこそ取り組んで欲しいです。  後は本を読めるような環境を整えることです。家に本がなければ子どもの国語力は上がりませんし、また子どもにだけ「本を読みなさい」と言っても無理な話です。塾にお金を出すだけではなく、まずはそこからやって欲しいですね。子どもに「本を読みなさい」と言いっ放しにせず、図書館に行って借りて来てもいいので一緒に読んで欲しい。例えば本の感想を言い合うなどするところから始めれば対話も自然に生まれるのではないかと思います。 ――コロナ禍で収入が下がり、学習塾にお金を掛けられないご家庭もあると思います。 高橋:「お金を掛けさえすれば学力が上がる」というものではないので、そこは不安を感じなくて良いと思います。お金を掛けずに着実に学力を上げる方法は、まずは好きな科目をとことんやり貫くことです。そして、それで勉強の楽しさを覚えたら、学校の勉強と並行して予備校のオンライン講座を上手に利用するのも良いと思います。例えば、現在所属しているN予備校では月1000円で全教科学べて、過去のアーカイブ画像も見ることができます。長年予備校講師をしてきて、お金を掛けられて高学歴になった子たちをたくさん見てきましたが、今はそういう時代ではありません。オンライン授業は離島でも外国でも利用できます。廉価なWebサービスを上手く利用して欲しいです。 ――大学入試制度が変化しても問われるべき学力の本質は変わらないと思います。入試制度のタイプにかかわらず、太刀打ちできる学力を身に付けるには何をすれば良いのでしょうか。 高橋:いい問題をきちんとやるということです。例えば、国語の読解力であれば、東北大、筑波大学など定評のある国立大学の問題をやるといいと思います。東大の問題だけ20年分やるのもいいです。そうすれば大学入学共通テストはもちろん、どのような形式の問題でも解けるようになる。後は小論文ですね。これからの入試は「自ら問題を発見し、自ら問題を解決する」能力を評価すると言われていますが、その能力は小論文で培うことができます。

AI社会に必要なのは想像力

――AIが到来する社会になり、人間はAIを使いこなせる存在になる必要があります。その基礎力となるのはやはり学力ではないかと思いますが、これからの時代に必要な「学力」とは何か、そして、それを身に付けるために必要なことは何かをお聞かせください。 高橋:一番大事なのは想像力だと思います。「AIが人間に取って代わる」とは良く言われることですが、「AIで作りたい未来」を想像できなかったらAIを使いこなせないですよね。また、治安を維持するという名目で、監視カメラが設置されてAIで顔認証ができるようになって、AIが人間を支配する社会が来るかもしれない。そういう社会は人間が幸せな社会とは言えません。あくまでもAIが人間を幸せにする社会でなくてはならないですよね。そう考えると想像力が必要であると感じています。そしてそれを養うのはやはり読書。『鬼滅の刃』も面白いですが、マンガがきっかけでもいいので、活字の本もぜひ読んで欲しいです。  また、想像力を持つのに必要なのは学力の根本である「興味関心」だと思います。自ら積極的に知的好奇心を持つようでなければ想像もできません。逆にそれがあれば知識を得ようとして自分で学びます。ところが、今は物事に対する興味関心が感じられない子が多い。小さい頃から親が色んなものを与え過ぎて自分から興味関心を持つことが少ないのではないかと感じます。  そして、もう一つは物事に対して問題意識を持って欲しいということです。問題意識がないと問題を発見できません。そして、問題を発見できなければ解決もできないということです。ところが小論文を教えていてある時期から感じ始めたのが「日本は問題がない」という答案が増えたことです。「日本は科学技術も進歩し、豊かなので問題がないのである」というような趣旨の答案を「バカボンのパパ答案」と呼んでいますが、そういう答案が増えて来ました。物事に関する興味関心が薄く「これでいいのだ」と思っており、問題意識もないので問題発見もできない。ところが、問題文にはたくさん問題点が書いてあるんです。それを読みとる力がない。  本を読んだり親子で対話を重ねたりして、お子さんに知的好奇心や問題意識を持たせてあげて欲しいです。 ――教師の役割とはどのようなものでしょうか。 高橋:生徒が勉強に夢中になれるきっかけを作るということだと思います。面白い問題、夢中になれる話を授業中にすることも大切です。「勉強って面白いんだよ」ということを伝える。できるだけ答えは言わず、自分の頭で考えさせる。極端に言うとファシリテーターのような感じです。「自分はこれだけ合格させた」という先生もいますが、それだと先生の自己実現になってしまう。勉強はあくまで生徒が主役です。自分の理想は生徒の知的好奇心に火を点けることですね。その火を点けたら後は勝手に伸びていきます。それで本人が勉強する快感を覚えたら心配ないですね。なので、親御さんにも子どもがそういう流れに乗れるような環境を整えて欲しいと思っています。 <取材・文・撮影/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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