給付が行われなかった場合、経済の落ち込みは長期間にわたる
一方、給付が行われなかった場合、コロナ禍による経済の落ち込みは長期間にわたるという。
「コロナ以前の水準には、今後2年経っても、つまり2023年の1~3月になっても戻らず、日本経済は低迷し続けます」(小野氏)。
失業対策としても、給付金は効果的だ。個人消費が伸び経済が活性化することによって求人が増えるからである。
失業率も、年間給付金額が多ければ多いほど早く下がっていく。Q1=1~3月、Q2=4~6月、Q3=7~9月、Q4=10~12月。(『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』より
「シミュレーションによれば、2021年の1~3月の失業率は3.8%。給付なしの場合では、2年後の2023年1~3月でも失業率は3.4%と深刻です。これに対し、
1人あたり年間80万円給付の場合には、2023年の1~3月には、失業率は2.52%まで低下するとの結果を得ています。
年間120万円の場合は、2022年10~12月以降は日経NEEDSでも計算不能ですが、少なくとも給付1年で失業率が大幅に低下することは確実です」(小野氏)
企業にお金をばらまくよりも、個人に直接ばらまいたほうが効果的
「政府が広く給付金を各個人に配るべき」という小野氏の提案に対して
「財源はどうするのか」という指摘は当然あるだろう。日本政府として財政健全化を目指す中で、特に財務官僚やその影響を受けた政治家やメディアは「ばらまき」に対して批判的だ。
だが、前掲の書籍
『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』の共著者である井上智洋・駒澤大学経済学部准教授は「実は、企業に対する『ばらまき』はこれまでも行われ続けてきたのですよね」と指摘する。
「日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、ETF(上場投資信託)を大量に買い入れ、株価をつり上げるということがこの間、ずっと行われているのです」(井上氏)
実はコロナ以前から、企業・株主へのばらまき=経済的支援は行われていた。(『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』より)
つまり、政府と日銀は公的資金を用いて日本株を「爆買い」して、支え続けてきたということなのである。特に日銀の年間ETFの買い入れ限度額は拡大され続け、12兆円にも達している。企業や株主にばらまくのがOKなら、国民全体に直接ばらまいて生活を支えてもいいのでは?
「日銀などのETF買いを全面否定はしませんが、『生活を守る』という点においては、政府が人々へ給付を行ったほうが有効なのではないかと思います。財源は国債を発行すれば良いでしょう。大量に発行された国債を、いったん民間銀行を介しつつ最終的には日銀が引き受けるということも、この間行われ続けていますから」(井上氏)
コロナ禍は「100年に1度の経済危機」と言われたリーマンショックの倍以上の経済的な損失を日本経済にもたらしていると言われる。それならば政府としての対策も、それに相応する思い切ったものであるべきだろう。小野氏や井上氏が求めている国民への継続的な定額給付を、緊急に検討することが必要なのではないか。
<文/志葉玲(ジャーナリスト) 図/ジェイ・マップ>