さて、話を冒頭に戻すと、トランプ大統領のアカウントの永久停止措置を受け、
ドイツのメルケル首相が声明を発表した。このニュースについて、日本国内のメディアは次のような見出しを掲げている。(参照:
時事通信、
日本経済新聞、
テレビ朝日、
Newsweek Japan)
「
米ツイッターにメルケル首相苦言」(時事通信)
「
メルケル独首相、Twitterを批判 意見表明の自由重要」(日本経済新聞)
「
トランプ氏のアカウント停止 『問題』と独首相懸念」(テレビ朝日)
「
独メルケル、ツイッターのトランプアカウント停止を問題視」(Newsweekjapan)
この見出しだけ見ると、「
ツイッターアカウントを永久停止するのは表現の自由の観点から見て、行き過ぎだ」と
メルケル首相がツイッター社の判断におかんむり……という印象を受ける人がほとんどではないだろうか。
しかし、実際にメルケル首相の発言を見てみると、
その印象はだいぶ変わってくる。(参照:
Bloomberg)
「ドイツのメルケル首相は月曜日に、
表現の自由に関するルールは私企業ではなく法律家が定めるものであるべきだと、(ツイッター社の)判断に反対した。
『首相は、
選挙で選ばれた大統領のアカウントが完全に停止されることを問題視しています』。ベルリンの定期会見で彼女のスポークスマン、
シュテッフェン・ザイバートはこう述べた。表現の自由の権利などは『干渉することもできますが、
企業の判断ではなく、法と立法府によって定められた枠組みによるべきです』」
まず、発言は
メルケル首相本人によるものではなく、スポークスマンを通したものであるのもポイントだ。この時点で、同メッセージの重要性がそこまで高くないことがうかがい知れる。
そして、こちらがもっとも重要なのだが、
メルケル首相はアカウントの永久停止そのものについては反対していない。というか、「
干渉できる」と明言しているのだ。
彼女が
「苦言を呈している」のは結果ではなく、過程であることを理解しなければ、このニュースは「
メルケルのトランプ擁護」にも見えてしまうし、「
表現の自由を盾にしたヘイトの野放し」にもつながりかねない。
というか、「
法と立法府によって定められた枠組み」の部分を見過ごせば、「
政府による言論弾圧の肯定」にも曲解することができる。
「
良薬は口に苦し」とはよく言われるが、「
噛み砕いた」ニュース報道に慣れきった読者・視聴者は、こうした細部にまで目を配って
自ら情報を咀嚼する能力が低下しているように思えてならない。もちろん、ニュースの「
美味しいところ」だけをピックアップし、好みの「
味つけ」をして、読者・視聴者の口元までスプーンを運ぶ
メディアも同罪だ。
何より皮肉なのは、こうした議会襲撃につながった
フェイクニュースの乱発、
ファクトチェック機能やメディアリテラシーの低下が終わるどころか、
加速している点だ。2021年に生きる我々はコロナウイルスだけではなく、こうした問題にも立ち向かっていく必要がありそうだ。
<取材・文・訳/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン