「結婚して、“普通”になりたい」30歳漫画家がヒモ彼氏を養う理由

主夫からただのヒモに

「ヒモの彼とは、去年から同棲を始めました。同棲と言っても、うちに住んでもらっているだけなのですが……。住まいは仕事場も兼ねているので、もともと2DKの部屋を借りていたんです。同棲を切り出したのも彼の方で、私は“家事をするから住ませてほしい”という彼の申し出を受け入れた形です。家賃や光熱費はもらっておらず、主夫という形で家に住んでもらっています。  彼も一応バイトをしているのですが、それは彼の個人的なお小遣いということにしていて、お互いの家計にはあまり口出しをしません。とはいいながらも、彼は最初こそきちんと家事をしてくれていたけれど、最近は私が忙しくて怒れないのをいいことに、まったく家事をしてくれないことも多くて……ただのヒモになりつつあるんですよね」  なぜ家賃や光熱費をもらわず、彼氏を“ヒモ”として自宅に住まわせているのか、と聞くと、彼女は「彼にお金がないからかなあ」と首を傾げていた。このくらいぼんやりとヒモを養ってしまう人もいるのだ。 「最近はコロナの影響もあって、田舎の両親も『早く結婚しろ』って電話をかけてくる。そうなると、私にはヒモの彼氏しかいないんですよ。他に連絡を取っている男の人もネット経由の人ばかりなので、乗り換えようにもまた同じようなことになるかもしれないし。少なくとも3年もお付き合いをしたということを考えると、やっぱり私にとって結婚に一番近いのはヒモの彼なんです。別に顔もかっこよくないし何もしないけれど、いて損にはならないだろうし」

「自分は“普通”だって言い聞かせたいのかもしれない」

 ヒモの彼は社会人経験がないそうで、結婚してもきちんと働く可能性は低いという。それでも酒井さんは、結婚がしたいのだろうか。 「うーん。本当は半々で生活費を出し合える人がベストだと思いますけど。でも、そんな人を探している時間もないし……自分が稼げているうちは、養う旦那でもまあいいんじゃないかなって。少しは家事とかも、やってもらいたいですけどね。  結婚しようかなと思うのは、親とか周りの視線が気になるからですかね。あとは、なんとなく既婚の漫画家に憧れていたから。一生独身と思われるのは嫌だし、自分の生活は“普通の暮らし”とはかけ離れているような気もするから、結婚することで自分は“普通“だって言い聞かせたいのかもしれない。友人にも親にも、『変わっているね』とばかり言われてきた人生だったから。私、“普通“になりたいんです。ただそれだけ」  独特の結婚観を持っている酒井さんは、3年付き合っている彼氏と、いまだに敬語で会話するのだという。彼氏のことが好きなのかと聞くと、首を傾げながらこう話してくれた。 「好き……なのか、よくわかりません。可愛がっている飼い猫や推しのキャラと比べた時に、彼の方が好きかと言われると、ちょっと違うかもって思ったりする。でも、猫や推しとは結婚できないから、やっぱり結婚相手は彼なんですよね。趣味が合うから一緒にいて苦じゃないし、仕事が忙しい私を理解してくれているので」  子どもができても、家を買うことになったとしても、ヒモの彼氏には期待していないという酒井さん。あくまで自立した生活の中で、周りに馴染むために「結婚」「旦那」という要素がほしいだけなのかもしれない。これも多様な結婚観のうちの一つなのだろう。彼女は果たして、結婚したら“普通”になれるのだろうか。 <取材・文/ミクニシオリ>
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携ったのち、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。
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