異例のNHK“ブーメラン人事”の裏に、前田新会長の「人事制度改革」構想!?

A氏は会長の「人事制度改革」構想のとばっちりを受けた!?

「大阪局の機能強化」は大義名分だったのか

「大阪局の機能強化」は大義名分だったのか

 ここで“ブーメラン人事”に話が戻る。あくまでNHK内でささやかれる“一説”だが、理事の角さんは一括採用への人事制度改革に否定的な考えだったという。それはもちろん前田会長の意志にそぐわない。  そこで「大災害時の大阪局の機能強化を実現する」というミッションを与えて、角さんを大阪に再び送り出したと言うのだ。理事の肩書きを残したままなのは「大阪局の機能強化をきちんと整えた暁には再び東京に戻す」という含みがあるのだと見る関係者もいる。 「前田会長が直接、角さんに因果を含めたんじゃないか?」と推測する向きもある。つまり、これは単純な“左遷”ではない。大阪局機能強化の大義名分のもと、人事改革に後ろ向きの理事を大阪に出す。それまで局長だったA氏は、そのとばっちりを受けたと言えるのかもしれない。  この“ブーメラン人事”は「会長の人事改革構想に反対すると飛ばされる」というメッセージとなってNHK職員に理解されている。実際にそうかどうかではなく、職員の間にそう受け止める空気がある。人事は組織の意志を表す。こうなると改革に反対の声を内部で上げるのは極めて難しいだろう。

人事制度改革を差配する人事局長は、私とかつて仕事をした仲間だった

東京都渋谷区のNHK本社

東京都渋谷区のNHK本社

 人事制度改革を差配するのは人事局。そのトップの人事局長に2020年4月に就任したのは山内昌彦。あえて呼び捨てにしたのは彼が私の初任地山口での1年後輩の記者で、社会部でも同じ旧厚生省担当として仕事をした仲間だったからだ。NHK時代に一番親しかった友人と言える。  その山内について早くも「会長の言いなりで一括採用に動いている」とNHK内で陰口をたたく向きもある。だが人は立場で仕事をする。賛成か反対かよりもミッションとして与えられた仕事に全力を尽くすということだろう。それを単純に責めては酷だと思う。  山内は、人事局長の前は編成局計画管理部長というポジションだった。これは危機管理のポストだ。2018年末、私が最初の著書『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文春文庫)を上梓した時、NHKの放送総局長の定例会見でこの本について質問が出た。  その時、放送総局長は自分では答えず、同席していた計画管理部長の山内に答えを振った。彼は用意された紙を取り上げ、書かれている文面を読み上げた。そこには「主要な部分において虚偽の記述が随所に見られる」という言葉があった。  記者からは当然「どこが虚偽なのか?」と質問が出る。それには「取材や制作に関することに関してはお答えできない」という返事をした。だが私はこれも立場上述べたに過ぎないと受け止めている。  彼は私のことをもっともよく知っているNHK職員だ。会見に出ていた記者によると、彼の発言はいかにも嫌々という感じが漂っていたそうだ。皮肉な巡り合わせを感じる。  さて、それでは「お前はこの人事制度改革に賛成なのか?」と問う方もいらっしゃるだろう。結論から述べる。反対だ。一括採用ではなく職種ごとの採用を続けるほうがいい。  すると「縦割り組織を温存するのか?」と疑問に感じるかもしれない。もちろんそうではない。縦割り組織の弊害は改善すべきだが、その手法は一括採用への切り替えではないと考えている。そのことを次回ご紹介したい。  縦割りの弊害はなぜ生まれるのか? どうすれば解消できるのか? このあたりはどの組織にも共通のテーマだと思う。だがそこに「犬HKと呼ばれないためには?」というNHK固有のテーマも盛り込む。共通する要素を含んでいるからだ。  そのお話にはあの著名人も登場する。「NHKをぶっ壊す!」で知られる「NHKから国民を守る党」略称「N国党」を立ち上げた、立花孝志さんである。 【あなたの知らないNHK 第2回】 <文・写真/相澤冬樹>
大阪日日新聞論説委員・記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『安倍官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(ともに文藝春秋)
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