東欧のコロナショックに立ち向かう日系中小企業の奮闘。板金プレスメーカーが高性能マスクを生産し、現地教育機関に寄贈

「町工場」が国と国の架け橋に

マスクの寄贈式でスピーチを行う創美クラフト・ポーランドの浅野慶一郎取締役(左)

マスクの寄贈式でスピーチを行う創美クラフト・ポーランドの浅野慶一郎取締役(左)

 モギレンスク群の役場において行われた寄贈式では、宮島大使、ノヴァツキ郡長、創美ポーランドの浅野取締役に加え、クヤフスコ・ポモルスキ県グラリク教育委員会長、ピォトロヴィチ教育施設長、ポーランド教育機関(Youth Educational Center for Boys in Strzelno)の生徒などが出席した。  マスクを寄贈されたポーランド教育機関ではスポーツや芸術を通した教育も行っており、寄贈式では生徒たちが製作したラップのミュージックビデオが流れる一幕も。コロナショックで緊張が続くなか、生徒たちのプレゼンテーションは、束の間の清涼剤となった。  一方、宮島大使のスピーチはなんとポーランド語で始まった。今年10月に着任したばかりの日本大使が現地語でスピーチを行ったことは、出席していたポーランドの関係者にとってもサプライズだったようで、寄贈式のあとに話を聞くと好意的な声が返ってきた。以下は、スピーチの抜粋である。  「昨年、日本とポーランドは国交100周年を迎え、両国は経済・文化などの各方面において緊密かつ良好な関係を築いております。ポーランドには300社以上の日本企業が進出しております。  COVID19の第一波が発生した今年の春、創美クラフト・ポーランド社から、『ポーランドのために何かをしたい』という提案がありました。本日、このような素晴らしい形で創美クラフト・ポーランドの想いが具体化し、また高性能マスクが寄贈される場に出席できて、本当に嬉しいです。  先ほど創美クラフト・ポーランドの工場を視察させていただきましたけれども、まさに日本の技術とポーランドの方々の勤勉さ、向上しようという精神、それが創美クラフト・ポーランド社の『ワン・ファミリー、ミリオン・チャレンジ』というモットーのもとで立派な成果を挙げていることに感銘を受けました」  「日本とポーランドのさらなる発展を期待します」という宮島大使だが、ともに困難を乗り越えようというチャレンジは、間違いなく両国の架け橋になるだろう。

次なる挑戦は「地元をハイテクシティにしたい」

ポーランドの教育機関からプレゼントを受け取る浅野取締役

ポーランドの教育機関からプレゼントを受け取る浅野取締役

 ワクチン開発などで少しずつ光明も見えてきたコロナショックだが、依然として事態が収束する気配はない。しかし、こうした成功例があることは、日本にとってもポーランドにとっても、大きな励みになるだろう。創美ポーランドの浅野取締役は、すでに次なるチャレンジに目を向けているという。  「マスクが成功したことは大きな自信に繋がりました。今後は、SDGs(持続可能な開発目標)などにも注目しながら、創美ポーランドの地元である街・トルンエコシティハイテクシティにすることが次の目標です。私たちは小さな『町工場』かもしれませんが、協力していただけるパートナーを国内外から募って、是非実現させたいですね」  一時は仕事が半分以下にまで減るという危機的状況にありながら、高性能マスクの生産で見事日本とポーランドの架け橋となった創美ポーランド。日系の中小企業が異国でまるで新しい事業に挑戦し、かつ成功したことは日本人として是非知っておきたいチャレンジだ。  暗いニュースばかりが続く昨今だが、こうした試みには逆境を乗り切るためのヒントが隠されているに違いない。 <取材・文・撮影/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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