有識者委員会の小泉委員長も「因果関係がないとまでは言い切れない」
原告の國井さんの意見陳述書
シールドマシンが稼働すると、沿線各地では
「震度2~3級で家が揺れる」、「コップの水が揺れている」、「ゴゴゴという音が聞こえる」などの苦情が上がった。筆者のもとにも2020年8月に、「アパート全体が揺れている。調べてみたら、アパートの真下でシールドマシンが掘削をしています」など数件の情報が寄せられた。
そして、陥没事故が起きた現場では9月14日にシールドマシンが掘削をしていて、その約1か月後の10月18日に陥没が発生した。
NEXCOは未だに「工事と陥没との因果関係」を認めないが、国土交通省、NEXCO東日本と中日本は、外環工事の技術的検討を行ってきた「東京外環トンネル施工等検討委員会」の中に「有識者委員会」を立ち上げ、小泉淳委員長は「因果関係がないとまでは言い切れない」と発言している。可能性の一つとして、「シールドマシンが土を取り込み過ぎたことで空洞がつくられ、その周辺が時間の経過とともに緩み陥没したかもしれない」と。
その後、陥没現場のすぐ近くで2つの空洞が地中に発見され、工事再開の目途はまったく立っていない。
原告である籠谷清さんが示すのは、NEXCOが現場周辺で行ったボーリング調査の図。縦線がボーリングをした場所を表すが、陥没現場の周辺では一切ボーリングをしていないことがわかる
今回の第9回口頭弁論は、まさしくこの事故の直後に開催された。この日も2人の原告が意見陳述をしたが、そのひとり、國井さん(前出)の意見陳述を紹介する(概要)。
「私は第1回口頭弁論で、振動・騒音・地盤沈下・隆起・陥没が起きる心配を述べましたが、この心配が現実になりました。今年8月から9月にかけて振動・騒音・地盤沈下などの苦情が住民から事業者に入っていたのに、事業者は原因究明しないまま工事を進めてきました。
住民に真摯に向き合わなかった報いなのでしょうか、陥没が起きました。事業者はさんざん『大深度なら心配いらない』と言ってきたのに陥没したのです。
私たちは何度も『命の保証はしていただけますか?』と問いかけても『大丈夫、安心してください』と回答されたことは一度もなく、『全力を尽くします』と返されるだけでした。全力を尽くした結果の陥没だから、命の保証など夢のまた夢だということがわかりました」
そして國井さんは、「もし空洞が工事前からあったのであれば、(それを発見できなかった)事前調査がずさんだったということになる。大深度法では『事業を遂行できる十分な意思と能力がある者』を事業者の要件としているが、事故が起きた以上は、法に抵触していることになる」として陳述を占めた。
原告側弁護士も、NEXCOの事前調査の甘さを指摘した。たとえば、大深度工事を行う場合の指針のひとつ、「大深度地下使用技術指針・同解説」では、事前のボーリング調査は「200mおき」を目安としているが、弁護士は東京外環でのボーリング調査は平均「992mおき」でしかないこと訴えた。
実際、陥没が起きてからNEXCOは陥没現場周辺で急ピッチでボーリング調査を開始。その結果、地中の空洞が発見されたのだ。
この日は被告からの反論はなかったが、東京外環の直上での陥没と空洞という物理的被害を否定できない以上、被告は次回以降どう反論するのか注目しなければならない。工事を再開すれば高い確率でまた陥没が起き、へたをすれば人身事故につながるだけに、関係者らは急展開する裁判を熱く見守っている。
<文・写真/樫田秀樹>