唯一、感染していたMさん、前述のように日曜日・月曜日とまずは熱が上がったが、検査結果の出た水曜日からは体の怠さも和らいできたという。しかし、木曜日からは自身がコロナに感染していることを嫌でも実感することとなった。
「味覚と嗅覚を感じなくなってきたんです。体調はよくなってきたのに、そういった症状が出て不思議な気分でしたね。ただの風邪だと鼻水がダラダラ流れますが、コロナの場合は鼻腔の上のほうがスゴく詰まっているような感じでした。呼吸はできるんですが、その症状が長くて、翌週の火曜日ぐらいまでは鼻が詰まって味もに匂いも感じませんでした……。その後、水木金曜日とだいぶ回復し、ようやく自主隔離が終了しました。隔離期間終了後は電話でかかりつけの医者から連絡がきて、土曜日からは外に出ていいですよ、と。ただ、陰性だった家族は引き続き、もう一週間隔離しなければいけませんでした」
コロナが爆発的に広がる前は、勤め先にもたびたび厚生労働省から連絡が入り、消毒や濃厚接触者の追跡が行われていたそう。しかし、一日で数千人、万単位の感染者が出ている現在は、電話でのヒアリングで自己申告になっているという。
「隔離期間中、はじめは毎日パトカーが巡回しに来ていました。『家にいますか?』と連絡がくるので、窓から手を振って自主隔離していることを見せて。ただ、毎日ちゃんと自宅待機していたからか、それは最初の一週間だけでしたね。毎日しっかり家にいることをアピールしていたからかもしれません。もちろん、外出などをして確認が取れなかった場合は、罰金が課せられます」
また、隔離期間中は次のような生活をしていたという。
「大人だけであれば、むしろ仕事が捗ることもあるかもしれませんが、小さい子どもたちと暮らしていると、精神衛生上キツいですね。子どもがいなければ、ホームオフィスをしているのと変わらないので。ただ、現場に出ないといけない業種の方は、お客さんへの対応など、ストレスが溜まると思います。うちは庭があるのでまだマシでしたが、狭い家だと刑務所状態になりますからね……。他人とシェアハウスをしている人や、学生などはいろいろ大変なんじゃないでしょうか」
このご時世、必要なものはネット上でなんでも手に入るが、コロナの影響が関係しているのか、そちらも難点があったそう。
「食糧や生活必需品はネットでなんとかなるだろうと思っていたのですが、納期がスゴく遅かったり、注文したものの半分しか届かなかったりして、結局は知り合いなどに頼んで、家の前に置いてもらうことにしました。子どもがいるとオムツなどすぐなくなるので、Uberのような形でスーパーの買い物代行を頼めたら、便利だと思いましたね。必要最低限のものは備蓄しておいたほうがよかったなと思いましたが、特に大きな買いだめはいらないと思います」
こうしてなんとかコロナの感染を乗り切ったMさん。感染が拡大している日本の状況はどのように見てるのだろう。
「ハッキリ言って、感染を防ぐのは難しいですよね。かからないためのリスクについては、マスクを着けて人の多いところを避けるぐらいしか、努力はできないと思います。体力がないと重症化しやすいので、地道に普段から運動をしたり、食事や規則正しい生活を心がけて、いつ感染してもおかしくないという前提のもとに生活するのが、我々にできることなんじゃないでしょうか。買い物や仕事はしなければいけないので、完全にロックダウンするのは難しいですからね。経済とのバランスもありますし。無症状で感染している可能性もあるので、結局検査をしないとわからないというのがコロナの怖いところです。政府の対応については、GoToトラベル・キャンペーンなどで、この時期に移動を促しているのは、やらなければいけないことの真逆だと思います」
幸いにも家族は陰性、本人は軽症で済んだMさんだが、筆者の周囲だけでも「一日20時間ぐらい寝たきりで、10日ほど記憶がなくなりました」(40代・男性)というケースもあった。
日本でも感染者は増えるいっぽうなだけに、万が一感染した際の対策や、より円滑・安全な検査システムの導入、そして指針となる政府の対応が必要となるだろう。Mさんの証言からも、きっと学ぶことがあるはずだ。
<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン