11月時点で19人が暗殺! メキシコのジャーナリストにとって2020年は最悪の年となった

「ジャーナリストになることは歩く死人になること」

 その一方で、収監されて拷問も受けた経験のあるジャーナリストのペドロ・カンチェは「彼らは我々を絶滅させようとしている。ジャーナリストになるということは歩く死人になることだ。我々は死の宣告を受けている。しかし、犯罪によって死ぬのではない。我々の務めである仕事をしたことによって死ぬのだ」と語っていたことが2017年5月の地元電子紙『SinEmbargo』で掲載されたが、真実を伝えるという使命感を強くもったジャーナリストもいる。  同様に麻薬について権威的な存在だったジャーナリストのハビエル・バルデスは彼の同僚だったミロスラバ・ブリーチが暗殺された時に、その翌日ツイッターで、「ミロスラバは詳しく報道するので暗殺された。地獄のことを報道するというのが罪で死の判決が下されるのであれば、我々全員を暗殺したらどうだ。沈黙することなど御免だ」と開き直って綴ったのも同じく同電子紙の同月別紙で掲載されている。しかし、彼もその後暗殺されてしまったという……。(参照:『SinEmbargo』)

労働条件も過酷なメキシコのジャーナリスト

 ジャーナリストに注意を払い保護する為に国が運営している委員会が200人のジャーナリストを対象にしたアンケート調査したところ、彼らの80%が8時間以上の勤務をしていると答え、週末に休むことは少ない残業手当を支給されているのは8%バケーションを取っているのは24%と答えたことも前述の『20Minútos』が報じている。そして、73%のジャーナリストが平均給与として7500ペソ(3万9000円)しか受け取っていないことも明らかにした。  このように給与が低いので、一人のジャーナリストが例えば4社の報道を兼ねて働いたり、または副業で働いて収入を増やすというのは一般化しているという。  もともと、メキシコは労賃が低い国としてよく知られている。これは政府の政策によるもので、また労働組合も昇給を要求するための力がない。労賃の安さが外国からの企業の進出を容易にさせて米国への最大の輸出国となった要因でもある。
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資金不足のジャーナリスト人権保護組織
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