2020年、新型コロナウイルスにより、映画業界は大打撃を受けた。大作の公開延期が続き、映画館は苦境に立たされ、多くの関係者が仕事を失い、収束の目処は一向に立たない。それどころか、冬になり世界中でさらに感染拡大が広がり、より状態は厳しくなっている。
そんな中でも、映画業界には新しく、喜ばしい潮流がある。2020年は、女性のエンパワーメントに溢れる、または女性の辛い心境に寄り添った、“シスターフッド”映画が充実していたのだ。
シスターフッドとは、女性同士の連帯や絆を示す言葉だ。1960年代から1970年代のウーマンリブ運動の中でも使われており、近年の映画作品においては厚い信頼や友情に基づく、姉妹または姉妹に近い関係性を指すことも多いようだ。
ここでは、幅広い方におすすめしたい、2020年に日本で公開されたシスターフッド映画を11作品紹介しよう。いずれも女性が勇気づけられるだけでなく、男性にとっても学びが得られる作品だ。
ストリップクラブで働く女性たちが、ウォール街の裕福な男たちから数年に渡って大金を騙し取っていたという実話の映画化だ。彼女たちはリーマンショックのあおりを受けた上に、シングルマザーとしての生活費や、収監中の恋人の弁護士費用など、それぞれの事情で困窮していく。それなのに、「経済危機を引き起こした張本人である金融マンたちは、なぜ相変わらず豊かな暮らしをしているのか」ということに憤り、彼らから金銭を巻き上げようとするのだ。
主人公たちがやっていることは犯罪そのものなのだが、「そうせざるを得なかった」彼女たちにどっぷりと感情移入ができるようになっている。社会における格差や搾取の構造もあって、本来であれば犯罪をせずに真っ当でいられたはずの “良き人たち”が、生き延びるために道を間違えていく様は悲哀に満ちていると同時に、「搾取してきた男たちを騙す」という過程があるために痛快でもある。そんな複雑な心境にさせてくれる作品なのだ。
2016年にアメリカで実際に起こったセクハラ騒動の映画化だ。クビを言い渡されたベテラン女性キャスターが、テレビ業界の帝王と崇められるCEOを告発するという、原題の「Bombshell(爆弾ニュース)」通りの衝撃的な内容となっている。
劇中では権力者の男性が立場の弱い女性を性的な目で観察、いや“品定め”をするというシーンがあり、セクハラの気持ち悪さとおぞましさを真正面から描くという覚悟があった。
あえてカタルシスを排除した淡々とした語り口であるため、痛快なエンターテインメントを求める人には向かないだろう。だが、その極めて“現実的”な描き方こそが、いかに女性が巨大で理不尽な権力に苦しめられてきたか、いかに告発することが難しかったのか、というこれまでの普遍的な事実を際立たせるようになっている。
テレビドラマとして人気を博し、2000年公開の映画版も大ヒットした『チャーリーズ・エンジェル』をリブート(仕切り直し)した作品だ。3人の女性が世界の危機を救うためにアクションを繰り広げる!という実にわかりやすい内容であり、『トワイライト』シリーズなどで人気のクリステン・スチュワートの“イケメン”ぶり、実写映画版『アラジン』でブレイクしたナオミ・スコットの“戸惑いながら頑張る新人”はずっと見ていたくなる魅力がある。
正直に申し上げれば、女性の強さを示すためとは言え男性キャラクターを相対的に下げすぎじゃないか、物語がいくらなんでも無茶じゃないか、などの不満もある。実際に本国では興行的にも批評的にも失敗作となってしまったのだが、単純明快なガールズアクションムービーだからこその痛快さは存分にある。カッコいい女性たちの連携や関係性を手っ取り早く観たいという方におすすめしたい。
4:『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒BIRDS OF PREY』
スーパーマンやバットマンで知られる“DCコミック”の人気キャラクター、ハーレイ・クインを主役に迎えた作品だ。悪のカリスマであった恋人のジョーカーと別れたハーレイは、全ての束縛から解放され、新たな最強チームを結成。謎のダイヤを盗んだ少女をめぐって、残忍な敵と対決することになる。前述した『スキャンダル』ではセクハラを受けてしまう役を演じたマーゴット・ロビーが、こちらではボコスカと男をなぎ倒すキャラへと変貌しているので、合わせて観るとよりスカッとできるだろう。
屈強な男たちを体術やバットでぶっ飛ばしていく痛快なアクションがてんこ盛りで、ハーレイの“気まぐれでめちゃくちゃ”な性格を反映したような時系列をシャッフルさせた作劇も楽しい。口下手で社会に馴染めない美女、職場で軽んじられている中年女性、生意気な少女など、チームのメンバーそれぞれが個性的でみんな大好きになれる。アメリカンコミックという世界中で人気の題材で、ストレートなガールズフッド映画が生まれたという事実が、嬉しくって仕方がない。なお、現在はNetflixで見ることができる。
5:『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
誰もが知る名作小説「若草物語」の映画化作品だ。女性がアーティストとして成功することが難しい時代に、活発な性格の主人公ジョーは小説家になる夢を一途に追い続ける。彼女をはじめとした四姉妹の姿を通じて、当時の(現代にも通ずる)抑圧的な男性社会の中で道を切り開こうとする女性たちの、「その人らしい生き方」を肯定する物語にもなっていた。
公開前は『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』という邦題はやや賛否を呼んでいたが、実際に本編を観た方からは称賛の声が多かった。本作は元々の「若草物語」におけるジョーという人物と、そして“物語”の意義をも、新たな視点から問い直しているからだ。画面の隅々までこだわった美術や衣装はひたすらに美しく、現代と過去を同時並行で描く作劇にも大きな意味がある、類まれな傑作だ。
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