大船渡線のBRT
1月23日、東日本大震災で被災して運転見合わせが続いていたJR東日本山田線宮古~釜石の復旧工事が3月上旬に始められるという報道があった。復旧工事完了後は三陸鉄道に引き渡されて、北リアス線・南リアス線とともに三陸縦貫鉄道として運行される見込みとなった。
これにより東日本大震災で被災した鉄道路線は、福島第一原発事故による帰宅困難区域が含まれる常磐線竜田~原ノ町を除く全区間で何らかの形で復旧に向けて手が付けられた、ということになる(大船渡線・気仙沼線はBRTによる仮復旧)。
今年春から夏にかけては、石巻線と仙石線の全線運転再開も控えており、まさに“鉄路が蘇る”わけだ。
だが、これらの路線の影に隠れて、いまだに復旧の目処がたっていない災害運休区間も複数存在している。例えば、今年1月8日にはJR北海道日高本線厚賀~大狩部で高波によって盛土が流出。JR北海道では、被災区間を含む鵡川~静内の運転再開には相当な期間を要するとし、復旧工事の工法検討を鉄道総合技術研究所に委託したとしている。
さらに、2011年7月の豪雨で橋桁が流失したJR東日本只見線会津川口~只見(福島県)では、被災から3年以上経過した今でも復旧工事すら始められていない。
こうした「東日本大震災被災区間を除く」災害運休区間は、全国で106kmにも及んでいる。そして、只見線の例を見れば分かる通り、多くの区間で復旧工事が思うように進んでいないというのが実情だ。
その背景について、鉄道専門誌の記者は次のように話す。
「復旧に時間がかかっている路線は、いずれも利用客の極めて少ないローカル線という共通点を持ちます。つまり、JRなど鉄道事業者にとっては、多額の工事費を投入してまでも復旧する意義があまりないと考えている。“これを機会に廃線にしたい”というのが事業者側の本音でしょう」
昨年4月1日に廃線となったJR東日本岩泉線(岩手県)の例を見れば、こうしたJR側の考え方がよくわかる。岩泉線は2010年に土砂崩れによる脱線事故が起きており、その後自治体側の反対を押し切ってJRサイドが廃止を決定。廃止後は路線バスが同地域に暮らす人々にとっての唯一の足となっている。
しかし、「必ずしもJRだけが悪いとは言えない」と前出の記者は言う。
「こうした運休区間は、基本的に災害に対して脆弱な区間なんです。そのため、復旧しても同じような災害が繰り返される可能性が高い。その度に多額の工費を投入することは難しいという理屈はよくわかります。東日本大震災被災路線の復旧にあたっても、JR東日本は海沿いの既存の路線をそのまま復旧するのではなく、高台移転などを条件にしてきました」
いくら公共交通機関とはいえ、JR東日本も民間企業。経営の足かせになる“危険路線”を維持するのは難しいというわけだ。
ただ、一方で“男気”を見せた事業者もある。JR東海だ。
2009年の台風18号で被災して運休が続いていた名松線家城~伊勢奥津(三重県)について、当初廃止の方針を打ち出していたが、地元自治体が治山事業を行うことを条件に復旧を決定。今年度中には運転再開の見込みだという。
「JR東海は東海道新幹線で莫大な利益を出している。名松線がいくら赤字路線でも、その赤字額は新幹線が一往復すればペイできる程度です。ですから、“被災を繰り返すリスク”が軽減されれば、復旧への障害はないということでしょう」(前出の記者)
となれば、首都圏の路線で儲けまくっているJR東日本にも同様の対応を求めたいところだが……。
「実際、只見線の例では地元自治体が復旧工事費の25%を負担する提案をしています。ただ、残念ながら合意には至っていない。今後起こりうる被災の可能性を出来る限り少なくし、利用者増加に地元が積極的になることが必要ではないでしょうか」(前出の記者)
昨年の三陸鉄道全線運転再開時、地元住民は「運転再開はとてもうれしいし、元気づけられる。だけど、クルマ社会だから鉄道を使うかどうかは話が別」と話していた。いくら地元自治体が鉄道の復旧を望んでも、利用者がほとんど期待できないようでは意味が無い。ある鉄道ファンは言う。
「東日本大震災で被災した鉄道路線は、鉄路の復活が震災復興のシンボルになったため、JRや地元自治体、国も本気になったんです。山田線や三陸鉄道なんて、廃線になってもおかしくないレベルの閑散路線ですから……。ですから、これを機に他の地域にも災害運休が続いている区間があり、その復旧についてもっと真剣に考える機会にしてもいいのではないでしょうか」
過去には、高千穂鉄道(宮崎県)が台風の影響で運休となり、そのまま廃止に追い込まれた例がある。東日本大震災の例にかぎらず、災害による被害は鉄道路線にとって致命傷になりうるのだ。そんな中、大井川鐵道井川線接岨峡温泉~井川のように、ローカル線ではありながら時間をかけて復旧の道を探っている路線もある。少なくとも、JR各社のように経営体力があるならば、復旧に向けて前向きに地元自治体と協議を進める姿勢を見せてほしいものだ。
<取材・文・写真/境正雄(鉄道ジャーナリスト)>