育休取得しやすい風土を作るには社員の意識改革が大切
「こうした率直な意見や要望を吸い上げ、可視化できたことで次のアクションに繋げることができた」と溝渕氏は語る。
「『育休を取ることで、家族を支えるための収入が減ってしまうのでは』という不安を払拭するため、国から支給される育休給付金額を簡単に計算できる独自の育休給付金シミュレーションツールを作りました。収入の変化を把握し、育休後の生活の見通しを立てやすくしたことで、安心して育休取得ができるよう配慮したんです。
また、育休の取得手続きマニュアルやQ&Aなども社内イントラネットに掲載し、育休を取得しやすい社内の雰囲気を作ることに尽力しました」
そして、職場環境の整備のみならず社員の意識改革に着手したことも、男性育休取得率が改善した要因に挙げられる。
「育休取得対象者の男性社員には、キャリア面での不利益は被らないこと、配偶者の負担を軽減するために育児参加は重要であることを説明しました。上司に対しては部下の育休取得に対する理解や、育休取得することの意義について訴えたことで、誰でも育休を取得しやすい社内風土の醸成に繋げました」
これらの取り組みが総合的に評価されてのグランプリ受賞となったわけだが、パネルディスカッションに登壇した静岡県立大学の国保祥子准教授は、「製造業という業種で、男性が110日間も職場を不在にしても仕事が回るというのは、並大抵のことではできない」と高評価を口にした。
「育休取得期間が1週間くらいであれば、周りのメンバーがちょっと頑張ればカバーできるかもしれないが、3ヶ月超も職場を離れた場合はそうもいかない。仕事の見える化や業務効率化をしっかりと行い、育休取得社員の業務の引き継ぎや業務を任せるための人材開発など、全てが相成って今回の結果に繋がったのだと思う」(国保氏)
働き方改革の文脈に沿って男性の育休取得促進が語られる中、今年は新型コロナウイルスによって未曾有の状況に転じた。イクメン推進に積極的な企業はどのようにワークスタイルをシフトさせ、柔軟に対応しているのだろうか。
技研製作所はテレワークを実施することで家事と育児のバランスを保てているという。「通勤時間を削減できた分、家事や育児に充てる時間が増え、ワークライフバランスに繋がっている」(溝渕氏)
ライフステージの変化に応じた柔軟な働き方、子育てしやすい企業風土、男性の育休に対する意識改革など、イクメンを取り巻く環境は10年前と比べて変化している。
ただ、今回の受賞企業の取り組みは一例であり、世界から見た日本の男性育児休暇取得率の低さを考えると、より多くの企業が男性の育休取得を理解し、実践していくことが今後求められるのではないだろうか。
<取材・文・撮影/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。