日本だけが取り残される「不正選挙デマ」。右にも左にもいる、デマに乗る人達

5、香港民主派

 これは番外編になるが香港の民主派、プロテスターの中にもデマや印象操作によるトランプ支持は根深い。中国からの圧倒的な弾圧の救い主はトランプしかいないという印象付けが強く行われている節がある。  オバマの民主党が中国を野放しにしたとか、トランプは裏で香港を支援しているとか、確認の取れないものばかりで、これには僕自身も苦慮したが、香港人で現在は警察の手を逃れ欧州にいるある人物とやり取りし、トランプの背景にバノンと郭文貴がいることを伝えると理解した様子だった。「郭文貴は誰も信じない、怪しすぎます」それが彼の見解だった。これには僕も安心した。  さらに言えば、6月に僕がシアトルで殴られた際に、広島の原爆投下を引き合いに出し日本人への人種差別発言までしてネットで嘲笑ったのがトランプ支持者のネオナチたちだった。  そんな彼らを支持基盤にもつトランプが、香港人の人権に本気で尽力するとは到底思えない。自国民の人権さえ蹂躙している人物なのだ。アジア人の人権に目を向けるだろうか?  人権というシンプルな観点で見ればわかるはずだ。今、複雑に絡み合った世界情勢を紐解くには、人権が最も有効なものさしになる。この観点に立ち返れば、政治家を見誤る危険は回避できるはずだ。  さらに対中国という構造で考えても、トランプは脆弱である。彼は多国間協定を破棄し、常に一国での外交にこだわったこの外交政策が香港への中国の弾圧を許すきっかけになったと私は考えている。

日本のジャーナリズムの敗北

トランプ支持の横断幕を掲げる女性支持者

トランプ支持の横断幕を掲げる女性支持者

 いわゆるBBFおじさん現象、不正選挙デマについて焦点を当てた結果、彼らに重要な共通項があることがわかってくる。それは事実と願望の区別がついていないという点だ。  しかし、どうして選挙権もない他国の選挙にここまで執心できるのだろうか?  私は選挙後に「バイデンは共産主義者であり、中国の手先だ」と断定しているツイッターアカウントを追跡した。驚くことに彼らはその後、ムーミン谷に紅葉を見に行ったり、のほほんとした日常に戻っている。本当にバイデンが中国の手先だとしたら、あなたはのほほんと紅葉を見れますか? 僕には理解できない。途方もない無責任さなのである。  日本において、こんなに無責任で事実と願望の区別がつかない人々が大量に発生していること、これは日本のジャーナリズムの敗北だと私は考えている。BLMが中国に乗っ取られたというデマも、プロテストと略奪が別であるという事実も、日本のジャーナリズムはきちんと検証してこなかった。彼らはフェイクニュースの根本を絶つことから逃げ、事実を伝える責任を果たして来なかったのだ。  そう、すでに日本のジャーナリズムは再生数稼ぎのYoutuberに敗北しており、それが今回、米国の事案であったことで可視化されたにすぎない。  トランプがホワイトハウスから去っても、職を解かれた彼のTwitterが凍結されたとしても、この問題は放置されるままだ。まずこの敗北を真摯に受け止めることができなければ、日本のジャーナリズムに復興の道は無いのだ。今回のことがその大きなきっかけになることを願いながら、NYの寒空を独りぼんやりと見上げている。 <取材・文・撮影:大袈裟太郎/猪股東吾>
おおげさたろう●1982年生まれ。本名、猪股東吾。リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り「フェイクニュース」の時代にあらがう。2020年6月よりBLM取材のため渡米。 Twitter
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