『ヒトラーに盗られたうさぎ』監督が語る、ファシズムに抗う「家族」と「教育」の力

原作のおかげで恐怖を感じずに

――作品ではナチスドイツが台頭する中で、知識人階級に対する弾圧がなされている様子も描かれますが、現在のドイツでは繰り返さないために書物を読んでレポートを書くなどの歴史教育にかなりの時間を割いていると聞きましたが、カロリーヌ監督が受けた歴史教育の中で印象に残っているものはどのようなものでしょうか? カロリーヌ:ドイツでは15、6歳ぐらいになると、ヒットラーや国粋主義、社会主義などについて学び始めるですが、悲惨な歴史なので、小さな子どもに対してあまり話さないという風潮がドイツにはあります。  そういう意味で今回の原作の『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』にはとても感謝しています。怖がらずに読むことができたんですね。もちろん悲しい気持ちにはなったし、心を動かされましたけれども、悲惨な歴史を少しずつ理解し始めるきっかけになったんです。
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© 2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

 お気に入りのおもちゃや大好きなお手伝いさん、友達と別れて逃げ続けるという物語ではあるけれど、小さな子供にとっての残酷な描写はなく、大きなショックを受けずに物事を理解できたことに感謝しています。  そして、やはり一番ショックを受けたのは収容所に行った時ですね。当時の映像やソ連やアメリカが収容所を開放した時に発見された物の映像を見たのですが、そのイメージは死ぬまで絶対に忘れないです。 ――主人公アンナ役のリーヴァ・クリマリウスキさんと兄のマックス役のマルノス・ホーマンさんはまだ若く、政治的弾圧の背景等を理解して演じるのは難しいのではないかとも思いましたが、素晴らしい演技でした。彼女たちに対して演技指導や背景の説明はどのようにしたのでしょうか。 カロリーヌ:アンナ役のリーヴァはユダヤ系でベルリンに住んでいますが、やはり両親が怖がらせないよう気遣っていたせいで、その時代の話は聞かされていませんでした。ただ、彼女は最初から「何かシリアスなことがあった」ということを察知していました。そして、自分の家族もその時代の傷跡を抱えているということを彼女はわかっていましたね。  亡くなったおじさんからもらった腕時計に息を吹きかけるシーンで泣いていますが、泣くように指示はしていません。彼女が自分の意思で泣いたのですが、後から聞いてみたところ、「当時のたくさんの人たちに起きたことが悲し過ぎるから泣いた」と答えていました。この時代について起きたことに対して深い理解が彼女はあったんだと思います。
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 もちろん、当時何が起きたのかについては彼女に対して話しました。まさに、ジュディス・カーが“ヒトラーにとられたももいろのうさぎ”で私に伝えてくれたように、ショッキングなことを言うのではなく、丁寧な説明をしました。兄役のマリノスは、学校ですべて教わっている年齢だったので、何があったのかということはすべて理解していましたね。

難民に思いを寄せるきっかけに

――この映画で監督が伝えたいメッセージについてお聞かせください。 カロリーヌ:若い人たちがこの映画見たときに「誰にでも起こり得ることだ」という風に感じて欲しいです。それまでの政治システムが自分達を必要としなくなった時には、突然自分が難民になる可能性もあるということです。主人公はどこにでもいるドイツ人の子どもだったのですが、ある日着の身着のままの状態で逃げなければいけなくなりました。そして、自分が生まれ育った家や大好きなおもちゃ、友達とも別れを告げて、全てを失いました。それがいかに辛いことかということも感じて欲しいです。  そして、そうやって難民にならざるを得なかった人たちに対して共感を持って欲しいですね。例えば、日本だったら、日本語を話せない人たちが日本で自分の居場所を探そうとする時に、彼らに共感する気持ちを持てるような人たちが数多くいることを願います。この映画がそのきっかけになればと思いますね。 <取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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