政治と宗教に抑圧されたポーランド女性たちの諦観とニヒリズム

ポーランドのデモ

Salvatore Allotta / Shutterstock.com

 ここ日本でもようやく注目される機会が増えてきたフェミニズムや男女間の格差。埋めるべき溝はまだまだ深いが、その一方でヨーロッパではコロナショックの最中に大勢の女性が通りに出てデモを行うという事態も発生している。自らの権利を勝ち取り、そして守るために声をあげる彼女たち。しかし、宗教保守的な価値観が深く根ざしている社会では、女性の中でも意見が分かれることもある。

過激なスローガンには女性たちも難色

 ポーランドでは、政府による妊娠中絶禁止法案の強行をキッカケに、大規模なデモが全国各地で発生している。  前回は、そうした宗教保守的な価値観が根付き、極右政党が支配する社会で女性の権利を訴えることについて、ポーランド女性の話を聞いたが、今回も引き続き男女間の格差だけでなく、女性の間にも存在する女性の権利への意識差について彼女たちの声から探っていこうと思う。  「まずデモについてですが、女性は暴力的な言葉遣いには共感できないですよね。日常生活で男性よりも下に扱われていると感じたことはあまりありません。仕事でも格差は感じないですね。私は美大に通っているのですが、フェミニズムが浸透していますから。それは先人たちが変えてきた結果だと思います。ポーランドは何度も戦争に巻き込まれたり、ヨーロッパでも初めて女性参政権が認められた国のひとつです。そういった意味でも、他の国とは違います」(Eさん・30代)  先述のデモでは「Wypierdalać!」(失せろ!)がスローガンとなっており、このメッセージには中絶禁止法案に反対する女性からも否定的な声があがっている。日本語で「失せろ!」と聞くとそこまで過激でもないようにも思えるが、実はポーランド語の原文では公共の電波で放送できないような言葉が使われていることを理解する必要があるだろう。  「今はお互いが分断しているので、話し合う必要があると思います。こうした争いはスラブ系であることや、メンタリティの問題なのか、原因はわかりませんが。ポーランドにもミソジニーはありますが、それは教育などの問題だと思います。私の場合は、母も祖母も強い女性でした。母も祖母も大学を出ており、祖母は幼稚園の先生になって、田舎の人たちをあれこれサポートしていました。どちらも教会には通っていますけど、いわゆる『信心深い』家庭とは違うのかもしれません」

現代のフェミニストの使命とは

 また、フェミニズムを語る際には、「男女間の格差がどれぐらいあるのか」という問題がつきまとう。そこには、地域性年齢職種家庭環境など、さまざまな要素が絡むため、すべてのケースをひとまとめにすることは難しい。  「現代のフェミニストは自分の価値を理解していて、何も誰かに証明する必要はないと思います。むしろ、自分より弱い立場にいる女性のために戦うことが新たな使命になっていて、中絶禁止法案反対デモなどもその一環なのではないでしょうか。宗教の影響について答えるのは難しいですが、こと政治に関して言えば、見ていてイライラしますよね。中絶禁止法案にしても、賛成・反対どちら側も生産性のない言葉遣いが目立ちます。そもそも、コロナが流行しているタイミングで触れるべき問題ではありません」  また、男性側の支援女性に接する態度日本人女性について訊ねると、次のような答えが返ってきた。  「ポーランドではミソジニーの男性は多いかもしれません。ただ、直接何かを言われたことはないです。若い男性は大抵女性側を支持していますけど、女性の問題なので声をあげづらいという面もあると思います。日本の事情については、記事などで読んだ知識しかありませんが、自由な気がしますコスプレ文化とかスゴく力強くて、自由に感じます。一方で、いまだにスーツやヒールを強制されたり、芸者やホステスもいるんですよね。彼女たちにも自分の意見があるんじゃないでしょうか」
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集団になると悪化する男性たちのミソジニー
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