コロナ禍スペイン。世界的に知られたバルセロナのラ・ラムブラ通りが荒涼とした「砂漠」化

計画性のない政府と、観光業依存の経済という2つのリスク

 ラ・ラムブラ通りのすぐ近くのエル・ゴティック地区のレィアル広場に足を踏み入れると殆どすべての店がシャッターを下ろしているという。そこで開けている僅かの店のひとつにカフェテリアArt i Saがある。テイクアウトの食べ物をサービスしているので開けていることができる。この店のオーナーマリソル・ヒメネスさんは「レィアル広場商店親交連合会」の会長でもあるが、彼女はエル・ゴティック地区が観光業に依存して生計を立てていたことを指摘した。また、それに加えて市庁舎や州庁舎で働く職員が利用していたが、「彼らが今はテレワークの自宅勤務をするようになった」と語って、観光客も公務員もいなくなって顧客が消滅してしまったことを指摘した。  彼女は11年前からこのカフェテリアを経営しているという。昨年は最高の売り上げを記録したそうだ。それが一挙にCovid-19で急落したということで、「今は惨憺たる状態だ」と彼女は取材に答えた。  彼女は、中央政府そして州政府が取った措置に計画性がないということと、十分な時間を持っての予告もなく店の営業を規制してきたということを強く批判している。7月15日から営業できる時間帯を制限した。そして10月になると24時間の営業停止で、唯一テイクアウトの店だけ営業できるとした。これらの措置を時間を持って事前に知らせていれば材料の仕入れも損失を少なくするように仕入れが出来ていたはずだった、ということだ。  政府に計画性がないということで、従業員にどのような対応をすればよいのかもわからない状態だった。その上、これらに関係なく光熱費や水道料金そして家賃と出費が重なって来る。  彼女の説明によると、この広場で1軒は廃業することに決めて、あと2軒がどうするか検討しているそうだ。

商店だけではなく地域全体が「貧困化」

 更に同紙はラバㇽ地区の町内会のアントニオ・マルティネス会長のコメントも加えている。それによると、この地区でバルやレストランで勤務している人はこの地区に住み、彼らの主婦が清掃などの仕事をして収入を稼いでいた。それが飲食業は閉めねばらなくなり、主婦も清掃の仕事がなくなって失業し一家に収入のない家庭が増えているそうだ。その影響で家賃が払えず毎日2-3件の立ち退き事件が起きているそうだ。このような清掃の仕事の場合は正式に社会保障費を払っての雇用は稀であるから休業補償も受けられないということになる。  コロナパンデミックでバルやレストランの営業に制限が設けられた今年3月から現在まで8か月間営業売上が赤字の状態が続いているということで、それに耐えることができる経営者はそれほど多くはいない。彼らの多くは開発金融公庫などに融資を依頼しているはず。しかし、それも何れは返済せねばならない。  マルティネス会長が指摘しているように、「バルセロナはこれまで観光のバブル景気で生計が成り立っていた」ということだ。今年の決算として経営者が最後に望みを託しているのがクリスマスキャンペースセールスである。それに応えるべく、カタルーニャ州政府もついに11月23日から飲食業の再開を許可した。但し、室内も野外も利用できるテーブルの3割まででシカも夜9時半までしか営業できないということになっている。これでは赤字は必至である。それでも僅かでも売上があるということが救いでもある。  残念なのは政治家や官僚の中で飲食業に携わった経験のある人が誰もいないということだ。それを経験していれば恐らくより適切な措置を取っていたはず。何しろ、経営者にとって売上がない状態が長期続くというのは非常に辛いことである。  このような状態はますます拡大傾向にある。同紙の同月23日付記事ではカタルーニャの空き店舗が35%までになっていることも報じられている。 <文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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