「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。
これまで「どうしてトラックはノロノロ運転をするのか」や「どうして路駐をするのか」など、世間に知られていない彼らトラックドライバーの事情を数々紹介してきたが、今回は、トラックドライバーたち本人の中でも議論となる「トラックやトレーラーは追突されても気付かないのか」を検証しながら、彼らの労働環境から見える社会的問題を提起していきたい。
トラックやトレーラーが事故を起こした際、ドライバーから「事故に気付かなかった」という声を聞くことがある。
大型車には死角が多く、歩行者や自転車の存在に気付かないことがあるというのはこれまでにも述べてきた通りだが、時には「接触したことすら気付かない」という意見も多くあがるのだ。
中でも分かりやすい事例が、当時大きく報じられた石川県のある追突死亡事故だ。
今年7月、石川県野々市市の市道で、路上駐車していたトレーラーに乗用車が追突し、乗用車のドライバー(当時46歳)が死亡する事故があった。
トレーラーの車内で仮眠を取っていたドライバー(当時47歳)は、事故の当事者であるにもかかわらず、仮眠後そのままクルマを出発させその場を立ち去ったとして、過失運転致死や救護義務違反などの疑いで逮捕。同ドライバーは調べに対し、「追突されたことに気付かなかった」としている。
この事故のように、トラックやトレーラーが後ろから追突される事故において、ドライバーは本当に気付かないものなのだろうか。
筆者は幸いなことに、現役当時はトラックで事故を起こしたことも起こされたこともなかったのだが、今回、この石川県の事故に関して、現役のトラックドライバー59人に見解を聞いたところ、実に
7割弱のトラックドライバー・トレーラーが「気付かない」または「気付かないかもしれない」と回答したのだ。
「長距離ドライバーは
トラックでの睡眠で、多少の揺れ、衝撃、騒音には慣れてます。熟睡してたら気づかない事もありえます」(50代男性長距離大型)
「トレーラーだけでなく、
大型トラックも『コツ』って感じの振動しかないですよ」(40代男性大型)
「かなり昔ですけど、
分流に停車して仮眠してたらおまわりさんに起こされて、追突されたと。まったく気がつかず。寝起きでいきなり事情聴取されました」(30代前半大型長距離)
「冷蔵ウイング車で青果物を運んでいた頃、某県内の国道で信号待ち中に酒気帯びノーブレーキの乗用車に追突された。
正直『コツン』とした感触しかなく、追突されたとは思いませんでした」(40代男性元長距離)
「自分は大型乗りですが、1度乗用車に追突されましたが全くわかりませんでした。
エンストしたかな、くらいの感じでしたね。追突してきた乗用車の人から次の信号で止まった時に教えて貰って、『ありゃー』でしたね。トレーラーなら本当に分からないと思います」(40代男性大型)
こうした「気付かない」、「異音があっても追突されたとは思わない」とする意見がある一方、「絶対に気付くはず」、「気付くのでは」と答えるドライバーも2割ほどおり、「自分も実際事故を起こした(起こされた)が、すごい衝撃だった」、「追突した相手が死亡するくらいだったらさすがに気付くのでは」という声もあった。
ただ、一般的に荷台が満載されているトラックは、車体後部の衝撃が運転席まで伝わりにくく、とりわけトレーラーに関しては、運転席側のトラクターと引っ張られる荷物側のトレーラーが、いわば「点」でしか繋がっていないため、「事故に気付きにくい」というのは間違いないだろう。
ドライバーが仮眠中であればなおさらだ。
これまでに起きたトラック・トレーラーによる他の「ひき逃げ事故」では、「(人ではなく)ただ物にぶつかっただけだと思った」という供述もよく聞く。
その供述全てが正直なものかどうかは定かではなく、気付くか気付かないかは事故時の状況や環境によってケースバイケースだが、これら大型車の特性から、少なくとも乗用車より気付きにくいのは確かだと言えるだろう。