大型車両は追突されても気付かないのか? 車中泊するドライバーたちから見える社会問題

トラック運転手が車内で寝ざるを得ない背景

 今回の石川県の事故においては、この「気付く気付かない論争」のほかに、一般ドライバーからはこんな声もあった。 「そもそもそんなところにトレーラーがいなければ事故は起きなかった」 「駐車スペースでないとこに車止めて寝てること自体が許されないだろ」 「ところ構わず寝るな。では歩行者が道路の真ん中で寝てていいのか」 「車道は車が走行する場所であり、人が寝る場所ではない」  こうした世間の意見に対して、声を大にして言いたいのは、彼らトラックドライバーも好きで車内泊しているわけではないということだ。  トラックドライバーという職業には、他の職業にない特殊な労働環境がある。  その中でも大きい特徴といえるのが、この「車中泊」だ。  全国を走り回る長距離トラックドライバーは、1週間、場合によってはそれ以上の期間、家に帰らず「クルマ生活」を送ることがある。  そのため大型トラックには、過去の記事でも紹介した通り、運転席の後部に寝台が付いているのが「通常」なのだが、トラックドライバーのように毎晩車中泊を続ける職業は他に類がなく、この「通常」こそがむしろ「異常」な状況だと言える。  また、「ならばせめて路駐ではなくどこかの駐車場に停めて仮眠しろ」という声もよく聞くが、トラックはその車体の大きさから、その「停められる駐車場」がないのだ。  荷主からは細かい時間指定があるうえ、時間になるまでは構内に入れてもらえず、さらには「近所迷惑だから近くで待つな」とまで言われる。  こうした彼らの「どうにもならない状況」を説明すると、トラックの中身が人間だということを忘れた一部の人たちからは「ならば止まらず走り続けろ」という声も浴びせられるが、彼らには定期的に休憩を取らねばならないというルールもあるのだ。

運送業界だけで解決する問題ではない

 同事故を処理した石川県警はその後、「トレーラーの違法駐車をなくし、交通事故を抑制するように」と県トラック協会に依頼したが、これに対し同協会は、サービスエリアやパーキングエリアなど、駐車して待機できる場所の確保を国の予算措置も含めて「逆要請」。  このことからも分かるように、周囲にとっては迷惑でしかないトラックの路上駐車の問題は、もはや運送業界だけで解決できる問題では決してないのだ。  トラックやトレーラーは、追突されても気付かないほど頑丈であるがゆえに「強い」というイメージが持たれるが、その存在における社会的な立場は、「中身」のドライバー含め「弱者」となることが多い。  今回の石川県の事故においては、トラックの路上駐車が最も大きな要因のひとつになっていることは間違いない。が、こうした路上駐車が生まれる原因をトラックだけに責任を押し付けるのにはあまりにも無責任すぎる。  荷主やエンドユーザーである我々が運送業界に求める「低運賃」と「時間厳守」、そして「駐車場がない中での路駐禁止」は、彼らを八方ふさがりにしているという現実がそこにはあるのだ。 <取材・文・写真/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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